6 / 200

第6話 菫(すみれ)

 数日後。 ドアを開けて円城寺が入って来た。女性を連れている。客は、はけて他にいない。 「いらっしゃい。あ、菫(すみれ)ちゃん。」 礼於が弾んだ声を出した。 「逢いたかったわ、レオン。どこに消えたかと思ったら、こんな近くにいたのね。」 円城寺が気まずそうに傑を見た。 「いやぁ、菫社長にせっつかれてレオンの居場所を教えちまった。」 全く悪びれる様子も無くシャアシャアと言う。 「レオン、ディアボラに戻りなさいよ。 私が売り上げは保証するわ。 いくらでもお金をかけてレオンをまた六本木一のホストにして見せる。」  傑があのセクシーな笑顔で話に入った。 「初めまして、高任と申します。」 シンプルな名刺を出す。 「あら、素敵なマスターね。 私は、上条菫(かみじょうすみれ)といいます。 不動産屋をやってます。」 名刺を差し出した。 [上条不動産 代表 上条菫]と書かれている。  知る人ぞ知るあの上条財閥の、確か一人娘で、不動産部門を引き受け、タワーマンションに特化して、今や業界一位に押し上げた敏腕の実業家だ。  父親の上条元康は、戦前の財閥で戦後の混乱を生き延び復活した経済の怪物、と言われている。  菫は、経済誌の表紙を飾り、世界の財界人との対談がいつも記事になっている。  バーで飲んでいる時間なんか無いんじゃないか?ジェットセッターってやつだ。

ともだちにシェアしよう!