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第16話 和彫り

 今日は広尾にあるグレースの仕事場を訪ねて来た。 「ハイ、グレース。 こちらはボクの恋人、傑だよ。」 「初めまして。高任傑です。」 「トレビアン、私はグレース・ラミン・ジャバ言います。スグルはステキな人。背が高くて、マッチョで。レオンはメロメロなのね。いい身体。 セックスも強そう。」 (種馬の品評会みたいだな。) 礼於が自分の腕の小さな龍を見せて 「傑も背中にこんな龍を入れたいんだ。」 「背中に?」 グレースは難しい顔をして 「日本の龍は難しい。和彫りの彫り師を紹介するよ。」  グレースは、広尾の彫武(ほりたけ)を紹介してくれた。 「彫武は腕のいい彫り師だから、和彫りなら、タケが間違いない。」  傑は、彫武の所にしばらく通う事になった。 「傑、大丈夫?痛くない?熱が出たりするらしいよ。」  彫武はほとんど機械を使わず、手に持った針を刺していく伝統的な方法で墨を入れるのでかなり痛いらしい。 電気針でサラッと柄を入れて行くタトゥーは皮膚の浅い所にインクが入る。和彫は皮膚の奥までしっかり墨が入るので色褪せないし、柄がくっきりと美しい。そんな訳で和彫はかなり痛いらしい。刺青の別名は、我慢、というのだ。 「我慢強いね。ごめんね。ボクがやらせたんだ。 背中を下にしないで。眠る時はボクが抱いていてあげるから。」 「大丈夫だよ。私にキスして。」 礼於が、うつ伏せになっている傑に覆い被さるようにキスしてくれる。 「大サービスだね。礼於に思い切り甘えよう。」  店を開けて仕事をしながらだったが、3ヶ月ほどかかって、傑の背中に龍が出現した。  色を使いたくない、という事で、カラス彫り。 モノトーンのシックな仕上がりになった。  それでも筋彫りだけの安っぽいものではない。 ボカシの入った見事な昇り龍だった。華美な装飾は一切無い、傑らしいものだった。

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