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第29話 過去

 久しぶりに円城寺の名を聞いた礼於は、ホストをやっていた頃を思い出していた。  傑に言わなければならない、と思っている事があった。 「傑、ボクがホストをやっていた時のこと、知りたくない?」 「何を聞かせたいんだ?」 穏やかな顔で傑が問う。 「ホストってイメージ、誤解されてるでしょ。 ボク、枕営業、とかやった事ないよ。」 「うん、確かに礼於からは想像出来ないよ。 ホストってそんな事が必須なのか?」  世間では大分誤解されている職業だと思う。 「身体なんか売ったことないよ。 でも、円城寺に犯された。ボク,世間知らずだった。」 傑に抱きついて泣き顔が見えないようにした。 悔しかった。傑にお尻の処女を捧げたかった。  お尻を犯されて,凄く嫌だった。愛なんか無かったと思う。  新人のホストはみんな円城寺に犯される。そして仕事で女性のお客さんを抱く。 「両刀使いにならなくちゃダメだ。 女でも,男でも,相手にするんだぞ。」  しかし、礼於は女性の相手を強制されたことはない。女の人はみんな、レオンを連れ歩きたがった。一緒にいるだけでいいと。 「不思議なんだけど、あの菫ちゃんがボクを守ってくれたの。  毎日指名してくれて、シャンパンタワーとか、大金を使ってくれるから、円城寺は何でも菫ちゃんのわがままを聞く。  ボクを自分専用にして、お店に貢献してくれるから、ナンバーワンって言っても菫ちゃんの売り上げのおかげ、だった。  嫌な事はしなくて済んだの。」 「そうか、菫ちゃんに感謝だな。」  傑は、あの、金のかかった孤独な女性を思い出した。礼於を抱き寄せて、その頬を優しく撫でる。 (それで、ホストと言っても何か世間知らずな所があるんだな。可愛いな。)  しかし礼於のゲイセックスは激しい。円城寺に仕込まれたか、と思うと心が焦げる。  あんな奴関係ないのに。傑には珍しくジェラシーなのか。 「菫ちゃんはボクとセックスしたいって言わなかった。もう、おばあちゃんよ、って言って。」 わきまえている人なのだろう。

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