35 / 200
第35話 菫ちゃん
「レオンがいなくなって、めっきりお客が減った。どうだい、もう一度働かないか?」
また言っている。まるでお客さんが減ったのは礼於のせい、みたいな言い草だ。
「円城寺さん、菫ちゃんが来るって。
今日は日本にいた!」
スマホを持って、礼於が嬉しそうだった。
「礼於の古巣なんだな。じゃあみんなにご馳走しよう。向こうにいるスタッフにも声かけて、何でも好きなものを飲んでくれ。」
藤尾さんは太っ腹だ。
「いらっしゃいませ。」
嬉しそうな円城寺の声にみんなが入り口を見ると、ニコニコして菫ちゃんが入ってきた。
「菫ちゃん、忙しいのに来てくれたんだね。」
「ええ、ちょうど良かった。ビジネスの話もあったの。みんなに聞いてもらいたかったから。」
「藤尾さん、こちら上条不動産の上条社長。
菫さん、こちら藤尾さん。ご存知でしたか?」
傑が紹介した。
「もちろんお名前は存じ上げておりますわ。
東京で藤尾さんを知らなければ事業は出来ない。
お会いするのは初めてね。」
藤尾さんは笑いながら、
「菫、俺の事忘れたのか?
集蔵だよ。幼稚園一緒だったろ。育った家が近所だった。よく一緒に遊んだよな。お医者さんごっこ、とか。おまえ,すげぇお転婆で。」
「えっ?集ちゃん?
うそ!藤尾さんと言えば,日本の経済界のフィクサーよ。うちの父なら知ってたかしらね。
あの、藤尾さんが集ちゃんなんだ?」
「日本は狭いな。箱庭か。」
経済界の大物が邂逅した。
「俺はただの、奥のご老人の使いっ走りだよ。」
「奥のご老人をご存知なのね。今度紹介して欲しいわ。」
「ああ、今度面白い倶楽部に連れて行ってやるよ。」
ともだちにシェアしよう!