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第56話 円城寺の過去

 昔の事だ。大学を辞めた円城寺は、自暴自棄になり、水商売の世界に飛び込んだ。彼は背が高くてイケメンなのだ。いい顔をしているが、何となく荒んだ空気をまとっている。薄汚い感じがする。  まず最初はキャバクラのボーイをやった。隙だらけの投げやりなボーイに、うまい話を吹き込む同僚がいた。 「円ちゃん、おまえ、イケメンなんだから、ただのボーイじゃなくてホストとかやれよ。  俺が紹介してやるよ。女騙して儲かるぞ。」 同僚は天道と名乗った。天道と一緒に、その頃有名になりつつあった新宿の老舗ホストクラブに入店したが、そこはマナーが厳しく3日と持たなかった。天道も怠け者で、2人でクビになった。  それからは近隣の三流ホストクラブを転々とした。ズルい稼ぎ方も覚えた。天道が 「円ちゃん、もっと儲かる方法があるよ。」 と言って胡散臭い人を連れて来た。貰った名刺に 「東横会 土方十四郎」と書かれていた。 「ひじかたじゅうしろうさん?」 「としろうだよ。東横会って知ってるか?」 知らなかった。どこかで聞いたような名前だが。 「知らない?当たり前だ。 そんなの元から存在しないんだよ。」 「えっ?」 「これは表向きの俺の名前。 これを使って商売するんだよ。」  天道も円城寺も少しビビった。 この名前で女の子を集めろ、と言われたのだ。

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