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第60話 死
円城寺はそれを吸い上げている自分を反省した事などなかった。でも傷の舐め合いはもうたくさんだ。
その直接のキッカケは天道の死、だった。
新宿の裏通りで刺されて天道は死んだ。
天道を刺した少年は、日本語もわからないが、日本で生まれたので中国語もわからない。中国から引き揚げて来た家族は皆、日本に来れば豊かになれるもの、と感違いしていた。その現実との落差に絶望していた。訛りのキツイ田舎の中国語で話す。おおよそ、そんな事を言っていたらしい。
担当した刑事が聞き出したのは大体以上だった。バックにいる組織については教えてくれなかった。
「あっけなく人は死ぬんだな。」
円城寺はしばらくなにも手に付かなかった。呆けたように時間を送った。
この辺を束ねる組の者に呼び出された。
「おい、おまえ、土方さんには随分、世話になったんだろう。スジ通せや。」
下っ端のチンピラが凄む。土方など何とも思っていない。ただ、金になりそうだ、と踏んだのだろう。
「天道を、殺ったのはチャイマのガキだ。
話しつけてこいよ。
葬式代、出させろ。色つけて、な。」
「俺1人で行くんすか?勘弁してくださいよ。
俺、堅気っすよ。盃も、もらってない。」
「ふざけんなよ。誰の顔で、シマウチで商売出来たと思うんだよ。」
「あのぅ、土方さんてそちらのお身内でしたか。」
「そうだよ。おまえだってゲソ入れてんだよ。」
「え、俺もヤクザ?」
「ヤクザ、ヤクザ、言うな!
天道は下手こいたんだよ。イモ引いたの。」
円城寺は考えた。
「じゃあ、俺、チャイマのガキと話し、つけますよ。組の名前出して、金ぶんどって来ます。」
そう言えば抗争になる。こんな半端の天道のために弔い合戦はまずいだろう。いくら何でも。
円城寺は知らなかった。何でもいい、奴等はケンカのタネが欲しいのだった。
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