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第66話 奥の老人

 あの倶楽部に黒い服の集団が集結している。麻布のお屋敷町、普段は閑静な住宅地の通りにズラリと屈強な黒い服の男たちが並んでいる。みんな一目で只者ではないオーラを放つ男たち。通りの両側を固めて他者を入れない壁を作っている。  その真ん中をのんびりと杖を付きながら、あの奥の老人たちが歩いて来る。 「ご老人,お車までご一緒します。」  ピシリと音のしそうな敬礼をして、リーダー格の男が寄り添う。近くにリムジンが停めてあるのだが老人たちは歩くと言うのだ。 「まあまあ、固い事言わんと。 今日はめでたい祝言の席じゃ。」  祝言と言っても、そんな堅苦しい物ではない。 小鉄がセッティングした、傑と礼於、ハジメとタカ、そして小鉄とジョー、もちろんロジとミト、沼田レイモンと尊、あの藤尾と名都、の6カップルの結婚披露パーティーなのだ。ゲイのカップルが6組。  あの六本木『ディアボラ』を貸し切って、内輪のパーティーの予定だが、早くもマスコミが嗅ぎつけているようだ。  「奥のご老人」がいらっしゃると言う事で秘密裏に準備されたはずだが、招待客の多さに、こう言う事はどこからともなく漏れていくのだろう。 ディアボラは大きい箱だが今日は大混雑しそうだ。菫ちゃんの買い取ったこのビルは13階のフロアが全てディアボラなのでかなり広い。 「めでたい事じゃ、気にするな。」  その辺のヤクザの襲名ではない。ご老人たちにもしもの事があれば、この国の存続に関わる。 (出来れば奥から出ないでもらいたいものだ。 ご老人の正体も知らない者たちが、畏れ多い。)  奥というのは、あの倶楽部の奥の部屋、という意味ではない。この国の最奥、という事だ。  ここにいる人間の何人が本当の事を知っているだろう?おそらくゼロだ。  

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