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第77話 チモ
チモの兄のジェロニモはハジメが初めて愛した男。冷たい男だった。ハジメが一人で舞い上がってインドにまで追いかけて行ったが、ジャンキーになったジェロニモはハジメの目の前で自殺した。ハジメのせいではないのに、自責の念から逃れられなかった。ハジメのトラウマ。
ミトが癒やしてくれたようなものだ。もう、過去の事だ。
ジェロニモが死に、あとを追いかけるようにインドでジャンキーになったのは弟のチモだった。
チモの親は地方の資産家で、秘密裏にハジメにサルベージを頼んだが失敗に終わった。
諦めてミトと一緒に日本に帰って来たが、ハジメは髪を切って忘れようと努めた。
その後チモはカトマンドゥで生死の境を彷徨い、一命を取り留めた。一緒に暮らしていた姫という女の子だけが死んでしまった。
その時チモは初めて気付いた。愛する者の死を目の当たりにしたハジメの苦悩に。
それがきっかけだった。神の声を聞いた気がした。
「おまえを赦す。」
姫の遺骨を持って一人で日本に帰って来た。姫には身寄りが無かった。
ハジメに会いたかった。会える自分になるために苦しい離脱療法を耐えた。麻薬を身体から抜くためにチモもまた贖罪の苦しみに耐えたのだ。
そして今は親の事業の一つを手伝っているという。
「俺、おまえに許して貰えなくても仕方ないと思ってた。でも、いつか兄貴の話を聞かせて欲しい、と思うようになったんだ。」
チモは今、ホテル経営を手伝っていると言う。地方都市で観光ホテルだが,やっと軌道に乗ったという。
今日の披露宴のことを同業の仲間から聞いて是非とも泊まって欲しいと思ってここにきたんだそうだ。
「皆さんの新婚旅行のような事に自分のホテルを使って欲しいと思ってここに来たんだ。」
チモは驚くようなことを言った。
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