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第81話 チモ

 和室の大広間に夕食が用意されていた。腕が確かな板前さんの見事な料理にみんな大喜びだ。  和室でゆっくりリラックスして、飲み、かつ食べる。美味い地酒に場が盛り上がっている。  そこにチモが挨拶に来た。 「皆さん、『まる亭』にようこそ、いらっしゃいました。亭主の丸山智綱(ともつな)と申します。  高任一君とそちらのミトさんには、ネパールで大変お世話になりまして、そのご縁で皆様にお会いできました。  ハジメ君に助けられて、今の私があります。 今日は,皆様の新婚旅行という事で、心ゆくまで楽しんで頂きたく存じます。」 「カタいなぁ、チモ。 今日はありがとう。これで縁を繋いで行けたら俺も嬉しいよ。」  ミトが小さい声で聞いた。 「ともつな、ってどんな字?」 チモが漢字の説明をした。 「知るっていう字の下に日を書いて、ち、っていう字だよ、智。それから、つな、はイトヘンに岡で、つな。綱引きのつな、だ、綱。それでともつな、です。何か気付いた?」 「あ、音読みで、チモ、だ。 ハジメが恥毛のチモだって言ったんだよ。」 「そう言ってたからね、あの頃は、自虐的に。 綱はもうとは読まないけどね。もう、なら網だ。」 「チモって,顔は怖いけど、面白い人だったんだね。カトマンドゥでは怖い人かと思ったよ。」 「死んだ兄貴が子供の頃、チモって呼んでたんだ。網と綱を間違えてた。 亡くなった兄貴は、学生時代、ジェロニモと呼ばれていた。カッコつけてたからね。」 確かジェロニモの本名は、丸山城太郎というのだった。ハジメが 「後で、ゆっくりジェロニモの思い出話をしよう。」  今はもう、普通に語れる。辛くなる事はあるが、あの傷口から血が流れるような気持ちにはならないだろう。

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