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第86話 タカ

「なんでおまえが泣くんだよ。」 ハジメは涙ぐんでいるタカを抱き寄せて、 「もう、過去の事だよ。 ミトとカトマンドゥにチモを探しに行った時の事を話してたんだ。」  まだ、タカと出会う前の事だ。 「ハジメは兄貴が死ぬのを目の当たりにしたんだな。恐ろしかっただろう。それなのに俺はそれを責めたんだ。悪かったな。」  チモが謝って来た。 「俺がガキ過ぎたんだよ。 でも、今でも,俺に何か出来たとは思えない。 ジェロは何を考えていたんだろう、」 ハジメの言葉に 「全部、麻薬のせいだよ。正気じゃなかったんだ。俺も真似して薬中になったからわかる。  長男である事が重かったのかもしれない。 大学でスペイン語をやってたのも、日本から逃げ出したかったんだろう。  ハジメも スペイン語専攻だったか?」 「そう、俺も逃げ出したかった。親からね。 親のいる、この国から。」 「逃げられる奴はいいよな。」 チモが本音をもらした。 「ごめん。」 タカを抱き寄せて、 「俺はもう逃げないよ。」 ロジが離れた席から声をかけて来た。 「そろそろ部屋に帰るよ。ミトが眠そうだ。」 見送りながらチモに説明する。 「カトマンドゥで一緒だったミトは、今のロジャーの嫁なんだ。」 「えっ?」 「ロジャー先生と公認でミトと旅した。 変わってるだろ,俺たち。 今はこのタカが俺の嫁。もう他はないから覚えておいて。」 「チモさん、よろしくお願いします。」 タカがペコリと頭を下げた。

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