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第91話 倶楽部
あの麻布のゲイパーティを主宰する秘密倶楽部も『忙中閑あり』。エアポケットのように落ち着いた日がある。今夜がそうだ。
会員制倶楽部だが、全ての客がこの倶楽部の内実を把握して会員になっている訳ではない。
高い入会金と厳しい推薦条件をクリアしたメンバーでも、倶楽部の本当の所は知らない者がほとんどだ。経済的に余裕のある、いわゆる政財界の大物が集まって来る。
秘密倶楽部なのに何故か知らない者はいない。この国で事業を展開するには、避けて通れない、ステータスシンボルでもある。
表向き、ママはドラァグ・クイーンの小鉄だ。
本当のオーナーは複数いる。一応小鉄は全てを仕切る立場だ。
複数存在するオーナーは『奥の老人』と呼ばれている。
特に、老人たちに気に入られた者は、入会に際しての、身元保証人や入会金を免除されているので、案外若者もいる。ハジメや傑がそうだ。彼らの伴侶も同じだ。
老人たちはイケメンが好きなのだ。
由緒正しい(?)衆道なのだ。基本、秘密厳守のため、身元照会は厳しく行われるが、意外な自由人が会員だったりする。縁があればその内、出会う事もあるだろう。
是非ともコネクションを繋げたい実業家はたくさんいる。上条不動産の上条菫.(すみれ)もその一人。彼女の父親、戦後経済の怪物、上条ホールディングスの上条元康会長は、以前会員だった。
彼女は父親を頼らない。上条菫は、藤尾集蔵の幼馴染、という事で今夜は、彼のエスコートでここに来た。ボディガードの深谷が厳重に張り付いている。
女性は極端に少ないが、全くいない訳でもない。
「ご老人、この前『ディアボラ』での合同披露宴を企画した上条菫さんです。『ディアボラ』のオーナーです。
彼女自身、上条不動産で事業を展開する経営者です。どうかよろしくお願いします。」
藤尾の紹介で奥の老人たちに、お目通りが叶った。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、すみれちゃん、わし達はあんたが小さい頃から知っているんだよ。
遠慮しないで、ここは自分の家のように使ってくれ。すみれちゃんは巫女だな。禊が出来ておる。」
「私の事、ご存じなんですか?」
「おまえさんのお父上はわしらの同胞みたいなものじゃ。昔は衆道じゃった。懐かしいなぁ。」
思いがけず菫を知っている事に、みんな驚いた。
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