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第98話 暴漢
数日後、藤尾さんが名都と共に帰宅すると、いきなり男が飛び出して来た。名都がいち早く首根っこを押さえて地面にねじ伏せる。
「何だ、この野郎!あっ、おまえ、あの時の。」
「待って。オレ情報を持って来たんだ。」
この前、名都の脇腹を刺したガキだった。胸ぐらを掴んで家の中まで引き摺って行った。
「また刺しに来たのか?
おまえんとこのボスは謝ってたぞ。
片腕、切り落としてかんべんしてくれってな。」
チャイマの日本でのボスの李(リー)が言ったのを、ご老人の温情で、エンコ(小指)もつめさせるな、って事で手打ちになった。祝い事の席だから、助かった。藤尾だけが知らされていた。
(チャイマってのは、そんないきさつも、組織の底辺までは伝わらないのか。大した組織では、ないな。)
藤尾も名都も呆れた。震えているガキをソファに座らせて、話を聞いてやる事にした。
「ボスに言われた、とかじゃない。
ボスが俺なんかに直接何かをさせる事はないんだ。 顔も知らない。」
それはそうだろう。
「兄貴がいるんだけど、、いつもチンケな仕事を回して来る日本人がいて、小遣い稼がしてやるとか言ってカツアゲとか、人集めさせられる。
オレの兄貴もそれをシノギにしてるから断れない。」
その日本人が藤尾か深谷を刺して来い、脅かすだけじゃダメだから、殺してもいい、と言ってるそうだ。
「オレの兄貴と仲間は、殺しを何とも思ってないんだ。この前も多摩川で、殺しの練習だって言ってホームレスを殺した。死体の処理を手伝わされた。みんな平気なんだ。日本人はゴミだって。」
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