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第105話 フロア
ハジメとタカが倶楽部に、楽しそうに入って来た。傑と礼於も一緒だ。
今日は、ショーはないのかフロアは静かな音楽でチークタイムのようだ。
「踊って、傑。」
元ホストの礼於には、チークダンスはお手のものだ。ホスト時代、女性客は礼於と踊るために、大変な努力をした。長い順番待ちを耐えることになる。礼於はどんなお客さんも分け隔てなく接した。菫ちゃんのような太客も、一見(いちげん)で、初めて来た客も。
礼於のファンらしい若い娘が
「お金を貯めてやっと来ました。」
などと言うと感激して席から離れない。円城寺にイヤな顔をされても気にしない。
「それが、礼於だよ。
美しい顔でしかも人懐っこい。
人気があるのはルックスだけじゃないからなんだね。」
礼於を抱きしめた。
フロアで踊っているのは、ゲイのカップルがほとんどだ。傑に抱かれて踊る。チークダンスなんて踊ると言うよりくっついて抱き合って揺れているだけだ。誰でも出来る。
「傑、二人で踊るの初めてだね。」
「ああ、礼於を抱いていられるなら、ダンスもいいな。みんなが見てると思うとなんだか唆られる。みんなが礼於を欲しがってるよ。」
「傑が素敵なんだ。
がっしりしたその広い肩に抱かれて、ボク幸せだ。傑の匂い。好き。」
「早く帰りたくなるな。礼於を抱きたい。」
「言わないで。ボクのあそこ、大きくなっちゃうよ。」
腰を押し付けて抱き合う。人目を気にしながらのキス。フロアにハジメとタカも出て来て、遠慮がちに抱き合って踊っている。なんか新鮮だ。
席に戻ると、藤尾さんと名都が来た。
「この前のミカドの客、俺を付け狙ってるんだよ。チャイマのガキ使って。」
「ケガとかないですか?」
傑が心配そうに聞く。
「ごめんなさい。ボクが水とか、かけたから。」
礼於がすまなさそうに言う。
「ははは、大丈夫。
チャイマのその子はもう友達だから、」
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