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第107話 ガンスとイルス

 新宿桜会の若いもんの中に在日の兄弟がいる。 日本が戦前、植民地にした朝鮮半島から強制連行して来た在日朝鮮人の2世、3世、である。  劣悪で立地の悪い河口などに追いやられ、住み着いて町を作り生きて来た人々。  日本はまだ本当の意味での戦争責任を果たしていない。国同士の謝罪などいらない。人間に謝れ、血の通った人間に。  日本で生まれた人々は祖国の事も知らず、差別と偏見の中で生きて来た。  何故か、極道の世界では、彼らを受け入れる。半グレだったガンスとイルスの兄弟も、桜会に拾われた。もう10年ほど前の事だ。  組の若いもんが、御法度のシャブ(覚醒剤)の売人になっていた兄弟を見つけた。 「桜会のシマ内で、シャブのバイとはいい度胸してるな。」  まだ、16.7才のガキだ。口も聞かないから手に負えず、若いもんが事務所に連れて来た。  当時、今ほど大きくなかった組事務所に連れて来て、佐倉組長が話を聞いた。 「なんか、事情があんだろ。 おまえらヤク中なのか?」  若いもんが、兄弟の手を取って袖を捲り上げた。取り敢えず、針痕を探す。手のひらを広げさせて指の間を見る。ズボンを脱がせて、腿と膝裏を見る。踝と踵の周りも確認する。 「こいつらはしゃぶ食ってないようです。ま、ざっと見ただけですが。」  シャブ中がシャブ欲しさに売人になるのがほとんどなので、意外だった。 「金が欲しいのか?普通に働けよ。額に汗してよ。」 「ヤクザがよく言うよ。」 二人は不貞腐れて言った。

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