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第108話 シャブ
ちょうど飯時で、部屋住みの連中が、
「組長、飯の支度が出来ました。」
「おう、おまえたちも食え。そうだ、名前くらい教えろよ。」
キム・ガンスとキム・イルス。二人は兄弟で18才と17才だと言う。
腹が減っていた。若いもんに交じって、旺盛な食欲で組の昼飯を食った。若いもんが
「飯が食えれば、ま、大丈夫でしょ。」
腹がいっぱいになったら少し口を聞くようになった。
「河口の朝鮮部落で育ったが、この前父親が死んだ。それで新宿に来た。売人になろうと思ったのは親父がシャブ食ってたから。売人に顔を知られてたから。」
兄弟はホームレス寸前の暮らしの中で、父親の日雇いの稼ぎでなんとか暮らしていたそうだ。
その父がシャブにハマってしまった。父親は苦労しつづけ、地を這うように暮らしていた。福祉の目も日本人にしか届かない。
なんとか、中学までは朝鮮部落の学校に行ったが、仕事がない。日雇いのような仕事を転々としてやっと暮らしていた。
ヘイトの右翼に小屋を焼かれたり。住む所もバラックだ。身元保証人もない。父親は法務局で受け取った変な証明書を持って、日雇いに出る。月に一度出頭して更新する。
「外国人なのか、オレたちはっ?」
勝手に日本に連れて来て、日本の名前をつけられて、でも日本人ではないらしい。
右翼が街宣車でやって来て、日本から出て行け、と怒鳴る。
「俺、木村岩男、弟は木村保夫っていう名前つけられてるけど、その名前は使いたくない。
キム、ガンスとキム・イルスだ。」
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