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第109話 キム兄弟アオと出会う
ある日父親は泊まり込みの飯場で労務者仲間からシャブを打ってもらった。
「親父が言うには、生まれて初めて幸せな気持ちになった、って。」
「そう、今まで生きていて何もいい事はなかったけど、人生で初めて今はバラ色なんだと。」
父親は初めて幸せっていうものを知った、と言った。金も無いのに毎日シャブを食っている。
狂ってもう人間じゃなくなって初めて幸せになれたんだと言う。
「だから、止めろなんて言えない。
親父のためになんとかシャブを手に入れようとして、ヤクザに捕まった。」
この組は居心地がいい。ヤクザは親切だ。
「勘違いすんな。他の組ならこんなに穏やかじゃないぞ。一緒にすんな。」
桜会は特別だ。他の組で辛酸を舐めて初めて知った。そして、親父が死んだ。
ガンスはケンカが強い。死ぬ事を何とも思っていない。身体中、刺し傷と根性焼きだらけだ。子供の頃からつっぱっていた。
イルスは心優しい男だ。佐倉組長は、イルスが望むなら上の学校に行かせてやる、と言ってくれた。今まで兄弟は力を合わせて二人っきりで生きて来たのだ。
佐倉組長の部屋には本がたくさんある。今は懲役に行って留守だが、イルスは組長の部屋の本を読む許可を貰っている。
その日も組長の部屋で本を物色していた。
「あ、お疲れ様です。」
代行の片桐さんが入って来た。
「イルス、アオだ。面倒見てやって。」
オドオドした若者が顔を出した。
これがキム・ガンス、キム・イルス兄弟とクレ・アオ、3人の出会いだった。
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