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第112話 アオ

「はあ、はあ、ガンス、オレの握って。」 「おう、こんなにして。 おまえを抱いていいのか?初めてか?」 「ううん、初めてじゃない。大丈夫、入れて。」  ガンスも慣れているのか優しく指を入れて解してくる。ローションが用意されていた。 「これ、誰が使うの?」 「俺はイルスの嫁だ。」 「えっ?じゃあ、オレは不倫?」 話しているのに、唇で塞がれた。  アオはずっと寂しかった。チャイマにオモチャにされても、そこから離れなかった。一人にされるのが怖い。使いっぱしりでも何でも、言う事を聞いた。  チャイマは、厳しいヒエラルキーの元に動いている。アオは黒龍江省にいた時、知り合った蛇頭の下っ端に拾われて、なんでもやった。そして日本に連れてこられた。  アオの親は元々台湾人だが、出稼ぎで中国本土に渡って来たところで、独立運動に巻き込まれた。台湾に帰れなくなった。  いつも台湾人の誇りを忘れるな、と言われて育ったが、親が相次いで亡くなると、根無草のようにひとりぼっちで彷徨うしか無くなった。拾ってくれたのは、蛇頭、と自称するチンピラだった。  12才、初めて男に抱かれた。もうその男から離れられない。チンピラでも、アオが頼れるのはその男一人だけだった。  16才になるまでには、チャイマにどっぷり浸かっていた。悪どいことをキッチリ実行する厳しい組織だった。蛇頭のような悪集団を束ねてチャイニーズマフィア、チャイマと呼ばれている。  日本人を殺せ、と言われた。初めての時は失敗に終わったが、襲った相手はそのまま許して帰してくれた。  チャイマのボスもアオが本当に殺せるとは思っていなかったようで、キツイ制裁は、なかった。  だが責任を取って、もう一度殺しに行かなければならない。 「失敗に二度目はねえぞ。わかってるだろうな。」  アオは優しかった藤尾や名都を思い出していた。初めて逃げる事を考えた。あの日本人なら権力を持っている。事情を話せばきっと助けてくれる、と無謀な事を考えた。 「あの人たちは優しかった。 殺す気なんて最初からなかったんだ。 逃げたかった。」 ガンスとイルスに話した。

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