127 / 200
第127話 処理
礼於はこの頃、何か忘れているような気がする。大した事ではない、とわかっているのに、それが何か思い出せない。
「え、今日って水曜日?火曜日だと思ってた。
じゃあ、火曜日はどこへいったの?」
「礼於、何を言ってるんだ?
1日無くしたみたいな言い方。昨日は火曜日だったでしょ。その前は月曜日。その前は日曜日。
いつも同じように時は過ぎるよ。」
「うん、数えると合ってるんだけど、なんか足りない。」
「そんな事ないよ。誰もそんな事感じてないよ。
私といると時間を忘れるって事?」
傑が笑っている。
やっとドアの修理が終わって、久しぶりにバーは営業している。
ドアを開けてミカドが入って来た。
「いらっしゃい。」
傑が声をかけた。礼於が、
「今日は一人ですか?寺田さんは?
あ、待ち合わせ?」
ミカドは怪訝な顔をして
「何言ってるの?この子。」
傑も変な顔をしている。
「礼於、誰かと間違えてる? 」
「えっ?ミカドさんでしょ。」
「あら、よく覚えてて、くれたわね。
恋敵、だからね。」
「よしてくださいよ。また、礼於に疑われる。
私は浮気はしないんだ。」
礼於は傑の耳元で
「寺田さんのこと、忘れちゃったの?」
「誰?」
「えぇ?傑もそんな事、言ってる。」
どうやら、みんな忘れたふりをしているようだ。
「今日は傑の顔を見に来ただけよ。
これから倶楽部に行くわ。素敵な恋を探しに、ね。景気付けになにか、カクテル作ってよ。」
傑が何か作り始めた。
ジンはタンカレーを使って、ホワイトキュラソーとレモンジュースを入れてシェーカーを振る。
チルドしたカクテルグラスに注いで
「ホワイトレディです。
ミカドさんにピッタリなレディのカクテル。」
傑が凄くカッコいい。ミカドもご満悦で
「今日はゲンがいいわ。素敵な出会いがありそう。礼於ちゃん、傑はとらないわよ。安心して。」
笑っている。
ともだちにシェアしよう!