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第129話 処理③

「誰か、探しているのじゃな。  この星では、ある時、流れが変わる事がある。 太陽フレアとの関係を研究している者もいる。  量子物理学のロジャーなら少しは気付いているかもしれない。  人智を超えた自然の理(ことわり)なのじゃが。 人間が操作できるものではない。  だが、わしらは見守り人なのじゃ。」 老人は信じられない事を言っている。 時の隙間に落ちる、或いは、落とす、ことが老人の役割だと言う。殺人とかではない。  その者の存在のすべてを消す。痕跡をなくす。 アカシックレコードからの抹消。  誰も悲しまない。誰かが悲しむ,と言うレベルのことではない。存在を最初から無かったことにする。これほど恐ろしい事は無い。恐ろしい事にさえ気づかない。  老人がそれを実行するわけではない。それは宇宙の営みの中で、寄せては返す波のように、月の満ち欠けのように、当たり前に繰り返す。  この度、礼於が気付いた寺田の不在や、抜け落ちた時間、は宇宙の営みの必然だった。その現象のほんの一部だったろう。不思議なのは誰もその違和感に気付かないことだった。  人類が地球に現れる前、短期間で恐竜が絶滅したネメシス。隕石の痕跡。人類はそのだいぶ後に地球に現れた事になっている。しかし、ある洞窟の壁画には、巨大な恐竜を人間が狩る絵が遺されている。これこそが、時の隙間、なのではないか?とこの頃では各国の研究者が言及している。 人類も気づき始めた,という事か。  何か、一人の人間を抹殺する事は、実際、あり得ない。この老人たちは、それを操作できるわけでは無い。ただ時々出てくる人間の中のバグを修正し、処理する事が出来るだけだ。 「おじいちゃん達って、いったい何才なの?」 礼於が聞いた。 「何才じゃろうな。忘れてしまうほど長生きじゃが。数千年か、数万年か。笑えるじゃろう。」

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