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第145話 アオ⑥
礼於は見なかったことにしようと思った。傑がアオに口づけた事。アオは傑に抱き付いて
「もっとキスして。」
なんて言ってる。いい加減にしろ、と怒鳴りつけようとドアを押した時だった。
「パンっ!」
乾いた音がした。誰かが駆けていく。
「礼於、警察!いや、救急車!早く!」
「どうしたの?」
アオが地面に倒れている。傑が抱き起こして
「アオ、アオッ!撃たれた!誰かに。」
何をどうしたか、良く覚えていない。
救急車が来て、パトカーが来て、バー高任の前は騒然とした。いつもは人通りも少ない住宅地が騒然としている。発砲事件だ。
傑は、事情聴取のため、警察に連れて行かれた。藤尾さんが来て、状況を確認している。
礼於は一人だった。傑と暮らすマンションに帰って、誰からも忘れ去られたように一人で傑を待った。
朝になって傑は帰って来た。
「一体、何があったの?」
「わからないが、銃で撃たれたようだ。
何もわからない。」
傑は震えていて、礼於がその大きな身体を抱きしめた。眠れそうにないが、ベッドに入った。
しばらくして、名都から連絡があった。
「アオって子が、チャカで撃たれて、即死だった。」
チャイマから李が来て、遺体を引き取ったという。アオを撃ったのは、チャイマの下っ端で、何か興奮して、裏切り者を始末した、と言ったそうだ。銃を持って自首してきたと警察から聞いた。
組織の仕事を失敗して、逃げてヤクザに匿って貰うなんてのは、粛清されて当然だと言ったそうだ。裏切り者を成敗したのだ、と。
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