158 / 200
第158話 ポットスチル
「わぁ、これがピート?」
蒸溜所の横はずっと湿原が続いている。掘り起こされたピートが積み上げられている。
「これを乾かして燃料にするんだよ。
スモークサーモンもチーズも、これを使うから独特な香りがするだろ。」
「うん、美味しかった。ハムも。」
蒸溜所の中に入る。隅々まで清潔に手が行き届いていて、生気に満ちた感じがする。案内してくれる誇らしげな傑の顔。素敵だ。
ランタン型のピカピカな蒸溜釜。
「ポットスチルだよ。」
「すごく大きいね。きれいだ。」
「初溜釜に並んで、再溜釜には精溜器が付いている。繰り返してアルコール度数を上げていく。
すごく簡単に説明したけど。」
樽に詰めて熟成させる。何年も、何十年も。樽もいろいろなフレーバーがある。シェリー樽やバーボン樽。ワインの樽もある。他にもいろいろ。
熟成期間でも味が変わってくる。ウヰスキーの味は、様々な要素の賜物だ。
「チモのホテルのバーでニューポットっていうのを飲んだよね。透明なの。」
「ああ、出来立てのウヰスキーだ。それを樽に詰めて時間をかけて熟成させるんだ。」
「傑はここで働いてるの?」
「ああ、ウヰスキーは面白い。
働いて、海岸を散歩して、毎日礼於の事を思ってた。」
肩を抱いてキスしてくれた。
「他の人なんか目に入らない。頭の中は礼於で一杯だった。」
「なんで帰って来てくれなかったの?
ボク一人で待ってたんだよ。あの部屋で。」
礼於の瞳に涙が溢れる。どんなに抱きしめても足りない。
「帰ろう。礼於と一緒に東京に帰ろう。」
ジンジャーに話すと
「覚悟してたよ。また帰ってしまうんだね。
でも、アイラはスグルの第二の故郷だよ。」
笑顔で送り出してくれた。
ともだちにシェアしよう!