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第161話 傑と礼於

「傑、ボク、ホスト続けてもいいのかな?」 「礼於は続けたいの?」 「うん、ホストっていうか接客は好きなんだ。 でも傑のそばを離れたくない。」 「私も離れているのは少し心配なんだ。」  いつだって傑にくっついていたい礼於だ。 サラサラの髪を梳かしながら,傑の首にキスマークを付ける。 「すぐ消えちゃうのがつまんないよ。」 「お揃いの龍がいるよ。 誰にも消せないタトゥーの龍。」 「うん、見せて。」  淫靡に蠢く黒い龍。傑の背中を占領している。礼於の肩にもカラフルなタトゥーの中に少し小さな龍と傑の眼が彫り込まれている。  その日の午後はずっと気になっていた「バー高任」に行ってみた。麻布の街をぶらぶら歩いて店に来た。外は変わらない様子だった。心配していた銃の痕跡もない。弾丸はアオの心臓に命中して身体の中に留まっていたそうだ。 「アオは、きっとマスターに迷惑かけないように自分の身体で止めたんだろう。」 藤尾さんが言っていた。 店の中は埃が少し積もっているが、何も変わっていない。 「ああ、何もかもそのままだね。掃除すればすぐにでも営業出来そうだ。」  たくさんのレコードが棚に詰まっている。傑の好きなジャズとブルース。  そして傑の敬愛する柳ジョージのアルバムがほとんど全部揃っている。 「日本人で本物のブルースが歌える稀有な人だった。」 いつも傑はそう言っている。礼於は、あまりよく知らなかったが傑に聞かされて大ファンになった。傑がいない時、一人でレコードを聴いて号泣した。心に響く歌。あの声。 「しばらくはジョージさんは聴きたくない。 辛かった事を思い出すから。」 傑が抱きしめてくれた。

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