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第168話 佐倉大五郎

 佐倉組長が出所する日が来た。片桐さんが、あまり目立たないような地味なメルセデスでお迎えに上がった。黒服の極道がズラリと並んでお出迎えするなんてのは、佐倉組長の最も嫌う事だ。 「組長、お勤めご苦労さんです。」 「おまえ、映画の見過ぎ。 それから、俺はベンツより、現場行く時の軽トラでよかったのに。」 笑いながら片桐さんをハグしている。  片桐さんは涙を流しながら、 「大ちゃん、寂しかったよ。浮気しなかったか?」  片桐さんは組長代行であり、この佐倉大五郎の嫁でもあった。二人はゲイカップル、いや、後生を誓った夫婦なのだ。片桐さんと組長は二人っきりの時には、お互いを、竜治、大ちゃん、と呼び合っている。  それでこの新宿桜会は、組み内でのゲイカップル率が高い。ガンスとイルスの居心地が良かったはずだ。  奥の老人達は、世の中が全部衆道になればいいなんて,思っていない。何事もほどほどがいい。  藤尾さんも名都も、片桐さんがゲイだとは知らない。こうなると、意外に身近にも多そうだ。  自宅に帰って来ると部屋住みの若いもんが出迎えた。 「組長,お疲れ様です。奥の部屋でゆっくりしてください。」  若いもんは、気を利かせて奥の部屋に酒肴を用意すると下がっていった。  奥には組長のプライベートルームがある。片桐さんは一応、近くのマンションに住んでいるが、組長がいる時はほとんどここで一緒に過ごす。  その時はみんな邪魔しないように気を利かせている。

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