168 / 200
第168話 佐倉大五郎
佐倉組長が出所する日が来た。片桐さんが、あまり目立たないような地味なメルセデスでお迎えに上がった。黒服の極道がズラリと並んでお出迎えするなんてのは、佐倉組長の最も嫌う事だ。
「組長、お勤めご苦労さんです。」
「おまえ、映画の見過ぎ。
それから、俺はベンツより、現場行く時の軽トラでよかったのに。」
笑いながら片桐さんをハグしている。
片桐さんは涙を流しながら、
「大ちゃん、寂しかったよ。浮気しなかったか?」
片桐さんは組長代行であり、この佐倉大五郎の嫁でもあった。二人はゲイカップル、いや、後生を誓った夫婦なのだ。片桐さんと組長は二人っきりの時には、お互いを、竜治、大ちゃん、と呼び合っている。
それでこの新宿桜会は、組み内でのゲイカップル率が高い。ガンスとイルスの居心地が良かったはずだ。
奥の老人達は、世の中が全部衆道になればいいなんて,思っていない。何事もほどほどがいい。
藤尾さんも名都も、片桐さんがゲイだとは知らない。こうなると、意外に身近にも多そうだ。
自宅に帰って来ると部屋住みの若いもんが出迎えた。
「組長,お疲れ様です。奥の部屋でゆっくりしてください。」
若いもんは、気を利かせて奥の部屋に酒肴を用意すると下がっていった。
奥には組長のプライベートルームがある。片桐さんは一応、近くのマンションに住んでいるが、組長がいる時はほとんどここで一緒に過ごす。
その時はみんな邪魔しないように気を利かせている。
ともだちにシェアしよう!