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第198話 イルス

 ロジとミトが、イギリスに旅立った。  相変わらず礼於はホストを続けている。夜は“ディアボラ”に、そして“バー高任”に帰って来る。  一つ事件があった。 チャイマの楊(ヤン)が殺された。藤尾さんの話だと、殺ったのは、あの新宿桜会のキム・イルスだという。自首して来たらしい。 「えっ?ガンスじゃなくてイルスなの?」  誰もが、犯人は武闘派で通っている、ガンスだと思った。イルスは思慮深く、そんな直情径行な人間とは誰も思っていなかった。 「アオの敵を打ちたい、とガンスには話していたらしい。ガンスは自分がやりたかった、と悔しがっている。」  藤尾さんの話だった。礼於は傑の事が心配だ。ショックを受けて、またいなくなってしまうかもしれないと。 「礼於、大丈夫だよ。殺し合いは悲しい事だけど、私は楊という人を知らないから。」 「それでも、人が簡単に死ぬ世界って何だよ!」  礼於の怒りに、傑は静かに礼於を抱きしめた。  藤尾さんが名都を連れて店に来た。佐倉組長と片桐さんも一緒だ。 「マスター、アオの事はこれで幕引きにしたい。 迷惑をかけたが、よろしく頼みます。」 組長の言葉に 「そうですね。なるべくなら、もうこんな命のやりとりは、まっぴらです。」 いつになく厳しい口調で傑は答えた。  イルスは懲役に行く。前科が付くだろう。暴力団構成員だという事で、刑は重くなった。 「俺なら前科は勲章なのに。 イルスには、エリートの道を行って欲しかった。」 とガンスは泣いたそうだ。 「馬鹿野郎! イルスは出て来たら、立派な経済ヤクザになるんだよ、」 組長にどやされた。

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