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第199話 倶楽部

 あの倶楽部は今日も開いている。人の出入りも、思惑も、受け入れて膨張して行くけれど、客には何も感じられない。  人々の出会いと別れ、を見つめているのか。 賑やかに面白おかしく夜は過ぎる。  奥の老人もうろついて、客を眺める。邪魔くさい年寄りを、しかし誰も疎まない。飄々と歩いている。確かにいるのだが、誰にもぶつからない。  空気のようにそこに在る。老人達は一体何人いるのだろう。実は、誰もその人数でさえ、知らないのだ。ただ『奥の御老人達』と言っているだけだ。名前も知らないのに、何故か、みんな一目置いて、畏敬の念を持って接する。  小鉄は店を任されて仕切っているが、本質には近づけない。 「ごく僅かの許された巫女だけが、その秘密を知るのね。私は、ほら、巫女じゃないから。  オカマ、だからね。 懐深く入り込んだつもりでも、実際にはその表面をサラッと撫でてるだけね。  この倶楽部の本当の所はわからない。 わかる必要がある、とも思えない。」  ハジメとタカ、傑と礼於、が連れ立って倶楽部に来た。 「なんか、ロジとミトがいないと思うと寂しいなぁ。」 タカと礼於が言った。奥の老人が一人、出て来た。 「どうじゃ、暮らしは落ち着いておるかの?」 「おじいちゃんたちは、何でも知ってるの?」 「ふぉっ、ふぉっ、また礼於の質問じゃな。 ミトがいないと踏み込んだ質問が出来ないかのぅ?」 「うん、何がわからないか、が、わからないよ。 こんがらがって来ちゃった。  おじいちゃんはボクを揶揄ってるでしょ。」 「そうじゃな、美少年を揶揄うのは年寄りの楽しみじゃからの。」 「一緒にお酒飲もう!それとも一緒に踊る? おじいちゃんは、酔っ払ったりするの?」 「昔は酔っ払ったものじゃが、忘れたのぅ。 忘れる事は人に与えられた、救いじゃ。 愛し合って生きる喜びとともに。 辛い事は忘れるために酒があるんじゃ。」  老人は奥へ帰って行った。途中VIP席にはあのグレースがいたような、気がした。 一緒に奥に入っていった、ような。

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