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第3話 解けない魔法

ことを済ませて、二人は医務室を出た。 近くもなく、離れるわけでもない距離。 愛し合ったわけじゃないんだ。 心肺蘇生の一環で人工呼吸したようなもんだ。 それにしても、ライライチョウプレイが流行る理由もわかる。 気に入った男が一気にメス化するなら、手っ取り早いというかなんというか。 そんなことを考えてると、アマギが声をかけてきた。 「じゃあ……俺はこっちなんで……。」 「ああ……じゃあ、また。」 アマギは自分の部屋に帰って行った。 目は合わせなかったが、声の調子は前のアマギだ。 きっと大丈夫だろう。 シモンも自室に戻る。 ―――― 部屋には机に向かっているユンがいた。 「今日、遅かったね。」 ユンは読んでいた資料から目を離して言った。 ユンは伸びた髪を軽く結んでいる。 「あ、うん。ちょっと事後処理があってね。そっちは何かあった?」 「うん。北側にしばらく行くかもしれなくて。早く髪切りにいかないと。」 ユンは髪を結い直した。 「そっか。わかったら教えてよ。」 シモンは冷蔵庫から飲み物を取って飲んだ。 「あ、俺にもちょっとちょうだい。」 飲み物を渡すためにユンに近寄った。 「……なんか、いい匂いがする……。」 「え?そう?」 飲み物のにおいを嗅ぐが、わからない。 「そうじゃなくて、シモンからいい匂いがする。」 ユンは立ち上がって、シモンのにおいを嗅いだ。 「におい……っていうか、なんていうか……。エロいオーラ?」 ドキッとした。 「もしかして浮気した?」 ユンは意地悪そうに笑って言う。 「してないよ!」 気持ちは浮ついてない。 だから、これは断じて浮気ではない。 布団をめくったときの、アマギのフェロモンを思い出した。 ああいう感じが、俺にも出ているんだろうか。 「昨日したけど……なんか今もしたくなってきた……。」 ユンが額にキスをしてくる。 ユンは、そこまでセックスをしたがるタイプではない。 イチャイチャするくらいが一番好きで、昨日したなら今日も……というのは考えづらい。 やっぱり、ライライチョウの魔法なんだろう。 ユンがそっとキスをしてきた。 ―――――― 「やめろ!ふざけるなよ!」 アマギが叫んだ。 「お前から誘ってるんだろ……!」 アマギと同室のモーリィが、アマギをベッドに押し倒していた。 モーリィに唇を奪われる。 「んん……!あっ……!」 モーリィはアマギのシャツの襟に手をかけ、力で前をはだけさせた。 首筋と肩があらわになる。 「……キスマークついてる……。」 モーリィはキスマークのついた首筋を舐めた。 「ああ……っ!もう……やめて……!お願いだから……!」 「どうしたんだよアマギ……。こんなに可愛くなっちゃって……。」 モーリィもうっとりした目でアマギの首筋を舐める。 「ふあっ!あっ……!」 「アマギ……お前のこんなエロい姿みたら、俺、もう我慢できないよ。」 モーリィがベルトに手をかけた時だった。 「アマギ!」 シモンが部屋に入ってきた。 「……シモンさん!が……なんで俺とアマギの部屋に……?」 モーリィは驚いている。 「あああ、あのね、今日、色々あったんだ。詳しくは後でちゃんと話すから、ちょっと、アマギを連れていくよ!」 シモンはアマギを担ぐと、速攻で部屋を出た。 「…………………………あれ?俺、今何してたんだっけ?」 モーリィは辺りを見回しながら呆然とした。 ―――――― 医務室の扉を勢いよくあける。 トマスがいた。 「おわ!どうしたんだ!」 「なんか……魔法の効果が持続してるような……。」 シモンはアマギを別のベッドに下ろした。 さっき使ったベッドはシーツが剥がされている。 「あ、後始末すみません……。」 「俺から頼んだんだから、いいよ。」 とはいえ、恥ずかしい。 改めてアマギを見ると、シャツからはだけた体はみずみずしく、思わず触れたくなる。 表情は、さっきのベッドの時と同じ、上気した顔だ。 「さっき、ちゃんと終わったんですけど…。」 「ああ、知ってる。シーツ見たから。」 「は、はい、その通りで……。帰りの廊下は、普通に戻った気がしたんですが。俺もルームメイトからエロいオーラが出てる、って言われて。心配になってアマギの部屋に行ったら、アマギがモーリィに押し倒されてました。」 「モーリィがそんなことするのは、意外だな。」 「俺のルームメイトも性欲は強くないんですけど、誘ってきたので、なんか、魔法の効果かな……と思って。ちなみに先生はなんでもないんですか?」 「魔術師が、簡単に魔法にかかってたら魔術師じゃないでしょう。」 「さすが……。頼もしい……。」 「じゃあ、早速二回戦目、よろしくね。」 「は?」 「だから、性欲が無くなるまでやればいい話だから。もっかいやるしかないでしょう?」 「ま、魔法をなんとかするのが、魔術師ではないんですか?」 「自然な対処法の方がいいんだよ。カゼひいたら、あったかくして、食べて、寝るみたいな。シーツは俺が洗ってあげるから。」 トマスは、それがフツーでしょ、という風に言った。 理屈はそうだけど……。 アマギは目元に腕を乗せている。 呼吸の荒さは変わらない。 アマギを、このままにしていられないのはわかってる。 「わ、わかりました。じゃあ……また、部屋をお借りしますね……。」 「その間に、俺も色々調べとくから。これはね、人助けだよ。人助け。」 人助け……そう、人助け、なんだよ。 自分に強く言い聞かせた。 決して、邪な動機じゃないし、浮気でもない。 任務の事後処理だ。

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