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第4話 最初の人

アマギを起き上がらせ、ベッドに座ったまま抱き寄せてキスをする。 激しくなく、ゆっくり舐め合った。 体をさすり、アマギを落ち着かせる。 アマギの息遣いも徐々に穏やかになってきた。 性欲が収まればいいのだ。 何も毎回激しくしなくても。 アマギを抱きしめて、頭をなでた。 アマギもシモンの背中に腕を回し、頭を擦り寄せる。 これまでのフェロモンのようなものは消えている気がする。 アマギの汗のにおいがする。 これもこれで生々しいけど。 「……アマギ、大丈夫?」 何に対しての大丈夫かわからないけど聞いた。 「……落ち着きました……。」 普通の声だ。 体を離す。 さっきはお互い顔を見るのも恥ずかしかったが、今回は今後のことも考えて、様子を観察しておく。 アマギは目を合わせてくれないが、雰囲気はいつものアマギに戻った気がする。 医務室の棚からTシャツをとり、手渡した。 アマギはTシャツを受け取り、袖を通すと、そのままボーッと座っている。 「コーヒーかお茶ならあるけど、飲む?」 「……お茶をお願いします。」 手持ち無沙汰でお茶を用意する。 早くトマスに帰って来て欲しい。 アマギにお茶を渡し、シモンはベッドから離れ、トマスのデスクの椅子に座った。 「……今回のこと、ユンさんには、言うんですか?」 「え⁈……言わないつもりだけど……。」 なんでそんなことが気になるんだ。 「ですよね。自分の好きな人が、他の人としたなんて、嫌ですよね。」 そうなのかな。 今回は、事故だし、人助けだし、任務の一環であって、決してやましいことじゃないんだけど。 まあ、やってることだけみたらセンシティブだから、そう思われても仕方ないだろう。 「まあ……でも、事情が事情だから、知られても、理解してくれると思うけど……。」 ユンの性格なら、そうなるだろう。 「俺のことよりもさ、ごめんね。なんか、こんなことになって……。」 そうだよ、いきなり好きでもない相手とヤるはめになった、お前の方が大変なことなんだよ。 「いえ……知ってたのに、ライライチョウを見てしまった、俺が悪いんです。」 「今、トマス先生も調べてくれてるし、なんとかなるよ。」 本気でそう思っていた。 まもなくトマスが帰ってきた。 「あ、終わってる。今回は早かったね。」 「先生の感想は結構です。何かわかりましたか?」 シモンは席を立った。 アマギはベッドに座ったまま聞いている。 トマスはシモンにかわって椅子に座り、机に資料を置いた。 「アマギは、ライライチョウを見た後、どうしたの?」 「俺とキスをしました。」 「あ、シモンに聞いてるんじゃなくて、アマギに聞きたいんだ。」 確かに、アマギの状態がわからないと対策はできない。 けど、あんなことを自分の口から言うのも恥ずかしいな。 「……シモンさんと、キスをしました。」 「どんな感じで?」 「濃厚に……。」 「気持ち良かった?」 「……はい。」 「トマス先生?この調子で全部聞くんですか?」 つい、シモンは口を挟んでしまった。 「そうだよ。」 「聞いてるこっちすら恥ずかしいんですけど。アマギにとっては、なおさらでしょう。」 「仕方ないだろ。任務の一環なら記録はとらないと。逆に言えば、二人の恋愛情事にするなら、聞かないさ。」 確かに、その通りだった。 「……シモンさん、俺は大丈夫ですから。先生、続けてください。」 「うん。今だけの辛抱だから、頑張って。じゃあ、その後、セックスしたのは、この医務室ってこと?」 「はい。」 「たぶん、この焦らしがまずかったんだと思うよ。普通、すぐ交尾するからね。キスした後、我慢するの大変だったでしょう?」 「……はい。」 トマスがこちらを見る。 「それって、俺のせい……ですかね。」 トマスは、ライライチョウの対応マニュアルを見せて来た。 『踊りを見てしまった場合、その場ですぐ性欲を発散させること』 ちゃんと書いてあった。 しかも、何もセックスでなくても、性欲さえなくなれば手段は何でもいいらしい。 俺はショックのあまり、崩れるようにベンチに座った。 「本当にごめんね、アマギ……。」 「そういうわけで、基本情報の取得が甘かった指導的立場のシモンに、責任はあるわけだ。」 資料を取り返しながら、トマスは言った。 「はい……もう俺はアマギのためなら何でもします……。」 ため息が出た。 「魔法の維持時間が長引いてしまったから、催淫効果が出てるんだと思う。いつを持って、アマギの性欲が無くなったとみなされるかが分からないね。今だと、無意識にモーリィみたいに相手を欲情させちゃうかもしれない。襲われたら、アマギも性欲が出てしまう。そしたらもう底無しだ。この寄宿舎でそんなことになったら、大変だよ。」 一瞬、あのいやらしくなったアマギが、複数人に襲われているところを想像してしまった。 ダメだ。 アマギは女が好きなんだ。 いや、男が好きだったとしても、関係ない奴にやられて喜ぶ奴はいないだろう。 アマギはベッドのカーテンの向こうにいるから、どんな様子かはわからない。 きっとショックだろう。 「話を続けるけど、アマギは発情してるとき、どんな気持ちなの?」 「……シモンさんに抱いて欲しいって、思ってます。」 口にされると、ちょっと感じ方が違う。 今まではこちらも機械的なセックスの相手として接していたが、名指しになると少しは情がでる。 まあ、アマギがそう思うのも、魔法のせいなんだけど。 「モーリィに襲われた時みたいに、他の人が相手だとどうなの?」 「……嫌です。でも、いつもみたいに力が入らなくて……。多分、ああなったら、男に抵抗はできないと思います。もし、されてしまうようなら、シモンさんにされてると思い込んで受けるしかないと思います……。」 え!そうなの? 『最初に見た人に欲情する』の条件がそんなに強いとは思わなかった。 「相手が別人なとき、体は気持ちいいの?」 「……はい。だから、すごく不快です。嫌なのに、気持ちよくて、自分が最低な人間になった気がします。」 胸が痛んだ。 そりゃ、そうだよな。 「聞いただろ?シモン。お前は今、アマギにとって大事な存在なんだ。恥ずかしがっている場合じゃないぞ。」 「わ、わかりました。」 「魔法の解除方法は探しとくよ。あと、二人の部屋を今日から用意しよう。アマギは、決して一人にならないように。」 こうして、アマギと密着した生活が始まった。

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