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第6話 インキュバス
トマスが検査をするということで、少しだけ一人になれる時間ができた。
朝、あんなことを言ったがゆえ、二人の会話はなかった。
喫煙所で煙草を吸う。
ユンが煙草が嫌いだから禁煙したが、今は吸わなきゃやってらんない。
「ありゃ、珍しいな。お前、煙草吸うんだ。」
不良上官のリンデルが煙草を吸いにきた。
「すみません、みなさんのスペースにお邪魔して。」
リンデルは上官だが、気さくで、こっちもあまり気兼ねしなくてよい。
喫煙所ならなおさらだ。
「相方のアマギ、大変なんだって?」
「……なんでそれを知ってるんですか?」
シモンは本当に驚いた。
リンデルは煙草に火をつけた。
「極秘任務だとかかっこよく言われてもさ、壁に耳あり障子に目あり。人の口には戸は立てられない。廊下に誰かはいたわけだ。医務室からアマギの喘ぎ声が聞こえてた。」
「……そんな……。」
恥ずかしい上に、またアマギの身の危険が高まった。
「ライライチョウ、お前は見たのか?」
「見てないです。」
「小ぶりじゃなかったか?」
「アマギの報告にはそうありました。」
「ライライチョウの品種改良が進んでな、より強く、より持続する催淫魔法を使うライライチョウができたらしい。」
「……そんなにみんな、気持ちいいセックスがしたいんですか……?」
リンデルは煙を吐いた。
「麻薬と同じかもな。」
「……反社会的組織に金がまわり、金が権力を動かし、一般人の人生も破壊する……。」
「まさかセックスを禁じるわけにはいかないし、ライライチョウを規制する法律なんてものはない。下手して、お偉いさんがたは、すでにお世話になってるかもしれないぜ。もう、銃で戦争している場合じゃないかもな。」
「……そうだとして、それを知って、どうしたら……。」
「わからん。見てみぬふりで対処療法なのか、勝負するのか…。まあ、なんにせよ、アマギの味方はお前しかいない。少なからず、相方としてはいい奴なんだろ?守ってやれよ。」
「………………。」
思っていたより、大ごとだった。
――――――――――――――
いてもたってもいられなくなり、検査室に向かった。
ガシャーンという何かが倒れる音がする。
急いで部屋に入った。
「アマギ!大丈夫か⁈」
「シモン?!助けてくれ!」
助けを呼んだのはトマスの声だ。
部屋の奥で、トマスが机の上に押し倒されている。
押し倒しているのは上半身裸のアマギだ。
「アマギ!落ち着け!」
アマギはシモンを認識すると、シモンに掴みかかってきた。
シモンは、アマギの腕をとり、上手く捻りあげれた。
アマギを床に倒し、拘束用の手錠を後ろ手にかける。
アマギが動かないよう、シモンはアマギの上にまたがって押さえた。
アマギは息を荒くしている。
「……な、何があったんですか?」
シモンはトマスに目をやった。
トマスのシャツが破られている。
「アマギに、どのライライチョウだったか、確認のために動画をみせたんだ。動画には魔法の効力はないとされていたんだが、みるみる興奮していった。でも、私にはフェロモンが効かないから、実力行使できたわけだ。」
「最初に見た人……という条件は、今は先生なんですかね?」
「でも、君がきたら、あっさりそっちへ行ったよね。あまりに性欲が極まって、誰でも良くなったのかな?」
アマギが大人しくなったので、手錠をしたまま起こしてやる。
「アマギ、話せるか?」
「……はい……。」
「何があったんだ?」
「さっき先生が言ってたみたいに、動画を見てたらすごくムラムラしてきて、誰でもいいからしたくなったんです。……暴力的に誰かを犯したくなるような欲望でした。」
「あ、危なかった……。」
トマスがつぶやいた。
「……そんな違いがあるなんて……。」
シモンも身震いした。
「でも、リスクをとったおかげで、どのライライチョウかはわかった。最近、貴族連中がハマってる、品種改良済みのライライ、通称『インキュバス』だよ。継続的に踊りを見せることで、自分好みの性奴隷を作ることができる。」
発想が気持ち悪い。
そこまでして快楽がほしいのか。
「今日はたまたま動画で強化してしまったが、これでアマギは、受けも攻めも、手錠プレイもOKってことになっちゃったね……。」
「手錠?!これもカウントされるの?!」
アマギに目をやると、後ろ手にされて前面の筋肉が良く見えるのも美しく、暴れたせいで髪が乱れてるのも色っぽい。
「……何見てるんですか……。」
「すまん!今外すから!」
急いで手錠を外した。
「逆に言えば、ライライチョウを見ずに、1週間もたてば、大丈夫だろう。」
それは良かった。
まさか寄宿舎に本物のライライチョウや、わざわざ動画はないだろう。
「アマギ、もうちょっとの辛抱だな。」
少し安堵してアマギに話しかけた。
「ええ、まさか自分が本物の手錠をかけられる日が来るとは思いませんでした。これ以上、人間の底辺のような経験は積みたくありませんね。」
アマギがシモンをジロリと見た。
「しょうがないじゃん……。」
これも事故だよ。
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