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第7話 図書館

この日はライライチョウを見てしまったということで、あまりウロウロせず、大人しくすることにした。 混んでいる時間を避けて食堂でお昼をとり、図書館に行った。 「シモンさんはどんな本を読むんですか?」 「本は読まないね。せいぜいスポーツ雑誌だよ。」 「確かに、シモンさんはそういう感じがしますね。」 「どういう意味だよ!」 賢くなさそうってことだろう。 「俺はミステリーが好きなんです。話題作なら大体読んでますね。」 「そうなんだ。」 あまりにも読まないので、話を膨らましようがない。 「シモンさん、登場人物が多くなると、ついていけないタイプじゃないですか?」 「そうだけど?何か悪い?」 アマギは明らかにバカにした笑みを浮かべて言った。 「今度、読み聞かせてあげますよ。」 「ああ、そう!じゃあ官能小説でも読んでもらおうかな!アマギの喘ぎ声は天下一品だよ!」 アマギはシモンの尻に向けて蹴りを入れた。 ―――――――――― 王宮図書館は市民にも開放されていて、それなりに人がいた。 市民図書館より国や軍事の資料が豊富だ。 奥の方には、セキュリティのかかっている貴重な資料を置く保管庫もある。 アマギはミステリーの棚を眺めている。 シモンも手には取ってみるが、内容が複雑そうで棚に返した。 せっかくだからライライチョウのことを調べようかと、棚を移動していると、魔術の棚に、『新インキュバス』という本があった。 何が古い方なのかの知識もなかったが、とりあえず手に取った。 この筆者によると、もともと言い伝えられているインキュバスは、男性型の悪魔で、睡眠中の女性を襲い精液を注ぎ込み、悪魔の子を妊娠させるらしい。 自分と性交したくてたまらなくさせるために、襲われる人の理想の異性像で現れるようだ。 それが新インキュバスの場合、容姿だけでなく、相手の性的嗜好にも合わせてくるため、相手を性的に堕落させ、廃人または凶悪な人格にするらしい。 もしかしたら、トマスは性奴隷という言い方をしたが、もっと悪魔のように積極的に為政者を堕落させ、国を弱体化させることもありうるのかもしれない。 為政者の贅沢で滅んだ国はたくさんある。 このことを伝えようと、アマギを探したが、ミステリーの棚にはいない。 「アマギ?どこにいる?」 まさか、昼間の公共の場だぞ。 こんなに人もいる。 明らかに油断してしまっていた。 ―――――――――――― ミステリーの棚にいたアマギは、お気に入りに作家の本を手に取った。 アマギはエログロが好きだったが、こんなタイミングでシモンに好みの話をするのははばかられた。 確かに、おかしな理由で体の関係になってしまったが、アマギはシモンのことは好きだった。 入隊した頃、見た目が良いことで、体を触られ、女になるよう誘われたり冗談を言われたりで散々だった。 2年目のバディ制でシモンが相方で良かった。 シモンはプライベートには踏み込んで来なかったし、実力を認めてくれた。 今も、自分の快楽でなく俺のことを気遣ってくれている。 さっきみたいな軽口がたたける仲になったのは、正直嬉しかった。 こんな異常な関係もあと少しだ。 「アマギちゃん、その人の本好きなんだ。結構エロいよね。」 声をかけられて、びっくりした。 横をみると、一年目の時の先輩、ビリーがいた。 ビリーはアマギに女になるよう、何度もしつこく誘ってきた奴だ。 「ビリー先輩、お久しぶりです。ミステリー読むんですね。意外です。」 「お前がミステリー好きだと知って、趣味を合わせようと頑張ったんだよ。」 「またまた、ご冗談を。」 ビリーはとりあえず新人に手を出すタイプで、まるで自分が男同士の初体験を与えるのが使命とでも思っているかのようだった。 「ライライチョウの魔法をかけられて、医務室でヤったんだって?シモンと。」 「……何の話ですか?」 「廊下でお前の喘ぎ声を聞いた奴がいるんだよ。あのアマギがエロい声出してたって。今、お前の話で持ちきりだよ。」 「随分、みなさん暇なんですね。」 「お前が悪いんだよ。無意識に人をその気にさせるから。」 急に後ろにもう一人現れ、口を塞がれる。 「んん!!」 ビリーはスタンガンをアマギの首にあてた。 ―――――――――――― 図書館は入り口カウンターを通らないと、出入りできない。 カウンターには不審な人間の目撃はなかったので、奥の資料室にいく。 セキュリティがかかっていた。 職員に頼んで開けてもらう。 暗がりの奥に、アマギが倒れているのを見つけた。 「アマギ!大丈夫か!」 「…………。あ……シモンさん……。」 「すまん、一人にして……。体は……大丈夫なのか?」 見たところ服は乱れているところはなく、倒れていた床も汚れていない。 「……ビリーに会いました。偶然じゃないと思います。ライライチョウのことや、医務室のことも知っていて。話しているうちに、他の男に後ろから襲われて…ビリーにスタンガンをくらわされて、気絶してしまったんです……。」 「……一体何のために……?」 意味がわからなかった。 とりあえず二人は図書館を出た。 部屋に戻り、アマギの服を脱がせて体を調べた。 全裸になったアマギをまじまじと見てみるが、傷も跡もなく、特に異常はない。 「俺たちだけじゃわかんないな。やっぱりトマス先生に調べてもらおう。」 「……裸になったら、興奮してきました……。」 それは、そうかもな。 アマギの護衛が失敗した罪悪感もあり、シモンはすぐにアマギにキスをして、ベッドに押し倒した。 「俺だけ裸なの、恥ずかしいんですけど……。」 「わかってるよ。」 シモンも服を脱いだ。 体をなでると、なでただけでアマギから甘い吐息が漏れた。 感度が良くなっているようだし、肌の様子が昨日とも違うと感じた。 より柔らかくてしっとりしている。 筋肉の弾力もあるのでなんとも艶かしく、抱き合っているだけでも気持ちがいい。 シモンが抱きしめたまま動かなくなったので、アマギが不思議に思って聞いた。 「……しないんですか?」 「なんか、こうしてるだけでも、気持ちいいなと思って。」 「……シモンさん、年だから……。」 「え!いや、俺だってまだ20代だし!ちゃんとできるんだけど、あえて、なんていうか、ただ入れるだけがセックスじゃないというか……。」 なぜ俺が言い訳をしなくちゃいけないんだ。 「んじゃ、俺がその気にさせます。」 アマギがキスをしながらシモンの下半身をまさぐる。 美しいアマギに奉仕されるのもまたいい。 でも、アマギに自分の喘ぎ声を聞かれるのは嫌だ。 「も、もういいよ。」 ちょっと恥ずかしくなって、下半身を触っていたアマギの右手を掴んで引き剥がした。 その時に気づいた。 「……アマギ……ここ……。注射した跡がある……!」 アマギの右腕に小さな注射跡を見つけた。

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