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第8話 男らしさ
注射痕を見つけて、急いでトマスのところに行くことにした。
アマギの性欲も落ち着いている。
医務室に行くが、たまたまトマスはいなかった。
「待っていれば来ると思うけど……もし何かまずいものを入れられたなら心配だ。」
シモンはおろおろしている。
「シモンさん、落ち着きましょうよ。今、頼れるのはトマス先生だけだし、いずれ来るでしょうから。」
アマギは、昨日座っていたベッドに腰掛けている。
「そうだけどさ。むしろ張本人のお前が落ち着いてるのが不思議だよ。」
「まあ、大したことはされなかったので……。」
「それは、結果論じゃん。あれでもし、犯されてたりなんかしたら……。」
もし、そんな姿を見たら、俺は平気ではいられない。
「……責任……を感じますか?」
「ああ。すっかり油断して、お前に怖い思いをさせて申し訳ないと思っているよ……。」
「…………………………。」
「怒ってる?」
「怒ってたら、その後キスなんかしないですよ。」
「本当は怒られて当然の失敗だよ。もう、俺はお前から離れない!決めた!」
「…………………………。」
アマギは反応が薄い。
色々あって、疲れているんだろう。
そう話しているうちに、トマスが来た。
「ありゃりゃ。また何かあったの?」
シモンは図書館での出来事を話し、トマスはアマギの注射痕を見た。
「注射痕だけじゃわからないが、普通に考えればアマギをエロくさせて、何かに利用しようとするよね。」
「これは仮説なんですが、インキュバス化した人間を、為政者のそばに置いて、国を変えたり滅ぼしたりする……っていうのはどうですかね?」
「ありうるかもね。金儲けや単なる快楽なら他にも簡単な手段はある。遠回りだからこそ、大きなリターンを狙っているかもしれない。一体、そのビリーと仲間は何なんだろうね。」
アマギに何かあれば、面がわれたビリーが犯人の一人になる。
なんでそんな自分に不利なことをするのか。
「今はまだ、何もわからないね。体調の変化に注意して、二人とも、もう離れないように。」
トマスは言った。
――――――――――――
部屋に戻り、アマギはシャワーを浴びることにした。
シモンはベッドに寝転がった。
一体アマギはどうなってしまうのか。
ライライチョウのせいで、ただエロくてセックスが好きなだけなら、別に自分が頑張ればいいだけだ。
これが、他の男に好きにされるようなら、俺も寝覚が悪い。
時々、シモンはアマギが性奴隷になっているところを妄想するようになった。
勝ち気でクールなアマギだからこそ、堕ちたときはたまらないだろう。
そんなことを考えているうちにアマギがシャワー室から出てきた。
今日はバスタオルを羽織り、体を隠している。
「そうそう。配慮が必要だよ。」
「シモンさんがいやらしい目で見てくるから、気をつけることにしたんです。」
「なんだよそれ!俺は……そんな不純な動機では見てない。」
アマギはスウェットに着替えた。
「じゃあ、純粋な動機……ってなんですか……?」
「へ、変化を見るための、観察だよ。」
「じゃあ、観察した結果、どうだったんですか?」
「……アマギの体は、エロいな……って思ってるよ。」
「不純と変わらなくないですか?」
「たしかに……。でもさ、他の男ならヤる目的で見るんだろうけど、俺は、アマギがどうしたら助かるか考えるために見てるわけだよ!」
「結果的には、ヤってますけどね。」
「まあ……たしかに……。」
アマギに言い込められ、シモンは複雑な気持ちになった。
なんだよ、こっちは心配しているのに。
アマギは布団に入り、こちらに背を向けて横になった。
「別にこっちは好きでこんな容姿で生まれてきたんじゃないんで。」
「そりゃそうだけど。いいじゃないか、色男で。」
「俺は、もっと男らしく生まれたかったです。もう少し背が高ければ、もう少し体がでかければ、もう少し無骨な顔なら、こんな目に遭わなくていいのに、って、今までも何度も思いました。」
「兵士になるってことは、男だらけじゃん。男色は……多少仕方無いよ。そもそも、もっと違う仕事とか、考えなかったの?」
「俺の生まれた村が侵略にあったとき、王国から兵士が来て、助けてくれました。すごく、頼もしくて、かっこよかったです。そういう兵士になろうと思いました。他の仕事は考えなかったです。」
すぐに仕事が欲しくて、給与の額で決めた自分とは大違いだ。
「今は、そんな正義の味方とはかけ離れた、性欲のままに腰を振るようなことになってますけど。」
「そんな言い方しなくても……。しょうがないだろ、今は……。」
アマギが苛立つのも、わからないわけじゃない。
そんな志があったなら、体目当てにされるのは癪だろう。
アマギが寝息を立て始めたので、布団をそっと出て、シャワー室に入る。
熱気と甘い香りが充満している。
ソープの匂いではない。
アマギの匂いだ。
やっぱり、注射されたものには何かまずいものが入っていたのだろう。
明日からも大変そうだ。
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