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第10話 修行センター

朝になり、早速医務室に行った。 トマスに昨晩の話をすると、リンデルも同席することになった。 トマスとリンデルは、日頃から繋がりがあり、今回のアマギの件も、共有して一緒に調べていたようだ。 アマギは別室に移動し、トマスの魔族性の検査を受けている。 「アマギ……どうなっちゃうんでしょうか?」 シモンはリンデルに話しかけた。 「もし、あいつがインキュバスになりきってしまったら、ここにはいられない。下手して討伐対象だ。」 「あの時……俺が目を話さなければ……。」 アマギは兵士として働くことが夢だったのに、俺の不注意でその夢を潰してしまうかもしれない。 「人間が仕掛けたことなら、解除方法もあるだろう。あまり、自分を責めるな。」 「……そうですね。」 くよくよしててもしょうがない。 なんとかアマギを助ける方法を見つけよう。 二人が検査から戻ってきた。 トマスが口を開いた。 「アマギは、やはりインキュバスになってきている。良い話としては、魔族化した方が自分の力をコントロールできるから、勝手に欲情したりさせたりはなくなる。悪い話は、もちろん、人間でなくなることだ。」 人間でなくなる……。 そんなことがあるなんて……。 アマギの様子を見る。 無表情だ。 普段からクールな印象だが、もちろん笑ったり怒ったりすることもあった。 急な事態に疲れているだけかと思っていたが、無感情も魔族化に関係あるかもしれない。 「そこで、一つ提案なんだけど。」 リンデルが話し始めた。 「トマスが修行していた、修行センターにこもってみないか?」 「修行センター?」 今度はトマスが話し始めた。 「魔族化を止めるには、本人の精神力の強さも必要だ。何度か、魔族化が進む山場が訪れるはずだ。そこをうまく耐えられれば歯止めがかかる。その修行をしてほしいんだ。これは、護衛をするシモンもだ。シモンも俺のようにアマギの魔力に負けないようにしないといけない。」 「要は、互いに禁欲しろ、ってことだ。」 リンデルが一言でまとめる。 「今まではむしろ発散だったけど、今度は禁欲……なんですね。」 シモンはアマギを見た。 「それが効果的なら、もちろんやります。」 アマギは答えた。 「私から修行センターには話をしとくよ。おそらく今回はセンターの人間は立ち入らないようにして、二人は修行メニューをこなすことになると思う。修行センターは国が認め、国家宗教が運営する神聖な場所だ。そこで何かあったら重罪だ。絶対にやましいことはするなよ。」 トマスが釘をさす。 たしかにそれくらい厳しいところで管理されないとダメだろう。 「はい。がんばります。」 アマギはあっさりと返事をした。 「ビリーは昨日から一ヶ月休暇をとっている。故郷の母親が看病が必要とかでな。俺はビリーの周辺を探るよ。」 リンデルが言った。 「俺も魔族化を止められる方法を探すよ。すまないが修行センターで時間を稼いでくれ。」 トマスが言う。 ―――――――――――― トマスが早速連絡をとり、その日の夜から修行センターに入ることになった。 体裁としては、上級魔族の呪いにかかり、解除の方法がわかるまでの隔離と自己防御のための修行、ということになった。 軍に対してもそう報告して話が進んだ。 期間は無期限。 荷物は何も要らない。 一応、道中の護衛のために、小型レーザー銃と手錠、連絡用端末は持って行くが、センター内はもちろん持ち込み禁止だ。 行きはリンデルが車で送ってくれた。 当人以外は入れないということで、敷地の入口でリンデルと別れる。 「俺たちもがんばるから、お前らも負けんなよ!」 性欲に……ということだろう。 修行センターは森の中にあった。 玄関前についた。 建物は神殿を小さくしたような形だ。 木漏れ日に照らされている。 敷地全体に結界がはってあり、神聖さを保っている。 「ここなら気持ちも落ち着きそうだ……。」 シモンは修行センターの雰囲気は好きだった。 「そうですね。なかなか自分を見つめる時間なんてないですから。」 アマギも修行センターの空気は気に入ったようだ。 玄関に入ると、入り口にカウンターがあり、小さな魔法陣が書かれている。 2人が近づくと、魔法陣が輝き出す。 『修行センターへようこそ。アマギとシモンですね?』 魔法陣から声が聞こえる。 「はい、そうです。」 アマギが答えた。 『では、ここでの生活について説明します。』 概要はこうだ。 今持っている荷物や身につけているものは全てロッカーに入れる。 荷物は後で係員が預かりにくる。 服や生活用品は全て指定されたものを使用する。 カウンターの向こうに入ってからの私語厳禁。 他人との身体の接触禁止。 定められた時間割の厳守。 毎日、高僧からの質疑があり、修行の進捗の確認がある。 そういうものだった。 カウンター横のロッカールームに入り、荷物を入れつつ着替えをする。 詰襟、長袖、長ズボンの体のラインが出ない、ゆったりしたウエアだ。 準備ができたので、カウンターの前まで戻り、シモンはアマギに声をかけた。 「今から私語厳禁だけど……何か今のうちに話したいこと、ある?」 「……もちろん、うまくいくことが一番ですけど……もし俺が魔族になるようだったら……。迷わず俺を討伐してください。」 アマギは無表情のまま言った。 「そんなことできないよ。大丈夫だ。なんとかなるさ。こうやって、色んな人が協力してくれているし。」 シモンも不安が無いといえば嘘になるが、やれることをやるしかない。 「……そうですね。がんばります。」 アマギはちょっとだけ微笑んだ。

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