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★第16話 カペラ
あれから3日が経過した。
宿屋の部屋には引きこもりがちだったが仕方ない。
シモンはふと、悲鳴が聞こえた気がして、カーテンの隙間から、部屋の窓の向こうを見た。
道路を挟んだ家の、2階の部屋が見えた。
カーテンも窓も空いている。
一人の少年が、男に掴みかかられている。
少年は上半身をベッドにうつぶせに押さえつけられ、ズボンを下げられていた。
シモンは迷った。
助けに行きたい気持ちはやまやまだが、大ごとになればこちらも危うい。
アマギを危険にさらすし、ユンにも迷惑がかかる。
「シモンさん……?どうかしたんですか?」
アマギに見せたくなかった。
カーテンをひく。
「…………………あのさ……ちょっとだけ出てくる。すぐ戻るから、絶対、ドアも窓も開けないで。」
「わかりました……。」
シモンは急いで部屋を出た。
残ったアマギは荷物を整理していた。
大した荷物量ではないが、やることがないのだ。
本が落ちた。
暇つぶしに買ったミステリーだ。
シモンに読ませるために買ったが、なかなか進まない。
誰がどんな人物だったか、いちいち確認してくる。
そんなシモンは可愛かった。
無事に日常に戻れたら、こんな会話ばかりになるんだろう。
「ごめん、ちょっとの時間とはいえ、一人にして。」
いつの間にかシモンは帰ってきていた。
「何かあったんですか?」
「……大したことじゃないよ。下で喧嘩してるのが見えたから、仲裁してきたんだ。」
「……そうですか。」
荷物をカバンに詰め直す。
カバンを棚に置いたとき、シモンが後ろから抱きついてきた。
服をたくしあげられ、シモンの左指がアマギの腹筋をなぞる。
「ちょ……いきなり、なんです?」
右手は服の中に入れられ、シモンの男らしいごつごつした指が優しく乳首をなでる。
「あ……っ。」
指で転がされたりつままれているうちに、乳首が立ってくるのがわかる。
左手はズボンの中に入れられ、足の付け根にも指が這う。
「んっ……。なんかゾクゾクする……。」
いつもと違う攻められ方で、アマギは興奮してきた。
ズボンを下げられ右手がアマギの尻を撫で、割れ目を指がなぞる。
左手は、徐々に興奮してきたアマギのモノを包んでいた。
「アマギ……昼間からだけど、しようよ。」
耳元にシモンの吐息がかかり、アマギも顔が熱くなってきた。
「うん……。」
アマギは棚に手を付くと、お尻を突き出した。
シモンの指がゆっくり穴に入る。
「……まだ濡れ足りないね。」
シモンはアマギを抱き寄せて、ベッドに押し倒した。
激しくキスをする。
「ん…!ふ……っ!」
シモンの舌が無理矢理に入ってくる。
あまり気持ちよくない。
アマギはシモンを突き放した。
「ぷは……っ!シモンさん……どうしたの……?いつもとなんか違うけど……。」
「ちょっと強引にしたい時って、あるじゃん。今はそんな気分なんだ。」
服も力づくで脱がされる。
さっきまでの軽い触り方とは真逆に、乳首を強く吸われる。
「……いたっ!もう!シモンさん、やめてください。俺は痛いのは嫌です!」
シモンを再び突き放した。
そしてシモンと目が合った。
シモンの瞳が赤く染まっている。
「ど……どうして……?」
シモンはアマギの足を無理矢理開かせた。
「や、やめっ……!」
そしてアマギの中に、自分のモノを入れる。
そのまま激しく突かれる。
最初は痛かったが、徐々に気持ちよくなってきた。
「うっ!あっ……!」
アマギは、この変化がインキュバスの特徴だとわかってきていた。
快でも、不快でも、刺激がある程度高まると「快感」に振れるようになっている。
兵士たちに輪姦されたとき、自分を守るために本能が致し方なくそうしたのだ。
すでにそういう仕組みが自分にできていたから、インキュバス化が進みやすいんだと理解していた。
「男としたことがないだなんて、嘘をつきやがって。」
シモンは罵りながら、深く突いてきた。
「んあっっ!」
アマギの腰が反る。
「僕と同じ淫売のくせに!シモンを同情させて、シモンに愛された!許せない!」
「お前……!カペラなのか……?!」
カペラの精液がアマギに注がれる。
そして、カペラはシモンの姿からカペラの姿に戻った。
女とも男とも見える童顔な少年。
体は細く、肌が艶かしい。
「……僕は小さい頃から男娼をさせられていた。ある時、インキュバスが来て、契約しないかと言ってきたんだ。インキュバスの血を入れて、僕自身がインキュバスになる。すると、身体と精神の苦痛がなんでも快感になるんだ。なあ、わかるだろ?ザニスに酷くやられても、お前は気持ち良かったよな?」
「……だから、なんなんだよ。」
カペラは自分のをアマギから抜いた。
「今、お前に精液を注いだ。淫魔なら、血より強力だ。お前もインキュバスになることを受けいれろよ。昔のことが辛いんだろ?インキュバスになれば、あんなに辛い昔のことすらも、思い出して気持ちよくなることができる。そしてシモンから離れろ。さすがのシモンだって、本物の淫魔を愛せるわけがない。僕とお前は、快楽と引き換えに一生孤独に生きるんだ。」
「……俺は、確かに過去のことは記憶に残したくないくらい辛かったよ。でも、淫魔に世話になるくらい、落ちぶれてはいない。」
「強がっちゃって……。でも、遅いよ。アマギの身体はもう淫魔になっている。あとは精神だけだよ。まもなく、僕の精液から魔力が沁みてくる。どんなに抵抗しても、もう無駄だ。」
「お前は、ただ俺が憎いだけで、こんなことをやっているのか?」
「ああ、そうだよ。お前が幸せになるなんて、許せない。僕は、インキュバスになったひきかえに、インキュバスを増やす手伝いをしているんだ。人間が勝手にライライチョウに手を出して流行らせたのは僕にとって好都合だった。ライライチョウでラリッた奴らの中から仲間を増やせばいいからね。
あの日は、人間が品種改良したライライチョウが逃げちまって、探しに行ってたんだ。まさか、ライライチョウがインキュバスになった僕に効くとは思わなかった。僕はシモンが好きになったよ。そしたらお前が出てきた。ヤるだけならまだしも、お前はシモンに初めてだと嘘をついてシモンの心を手に入れた。卑怯者め。」
「そんなつもりで言ったんじゃない……。」
「結果は同じだろ?シモンは情にほだされて、お前の王子様になった。羨ましかったよ。助けに来てくれて、優しく抱いてくれる。最高じゃないか。
僕はお前が穢らわしさを隠して幸せになることが、許せないんだ。だから、お前に血を与え、ザニスに襲わせた。わからせてやりたかった。俺たちは、決して幸せになんかなれないんだって。」
「じゃあ、お前は……その孤独な人生を、これからどうするつもりなんだ?」
「ははは!僕は僕の人生を壊した奴らを皆殺しにしたいよ。権力者をたぶらかして、民衆を堕落させて、戦争を起こすんだ!勝ち負けなんて関係ない!くだらない人間とやらが、全滅するまでやめないよ!あの大神官ですら、僕の虜になったんだ!笑っちゃうよね!何が神だ!何が愛だ!僕は今まで一度も見たことがないよ!」
声をあげて笑うカペラに、アマギが言った。
「なあ……お前は、本当に誰からも愛されなかったのか?」
カペラの笑いが止まった。
「…………お前はいいよね。トマスも、リンデルも、結局あの神官たちもお前を助けた。ユンですらも。」
カペラはアマギを殴り始めた。
――――――――――――――
シモンは向かいの家に駆け込んだ。
出てきた家人を押し退けて2階に上がる。
あの部屋に飛び込むと、男と少年がいた。
「やめろ!その少年を放せ!」
男の腕を引き、少年から離した。
「だ、誰だあんた!」
「この少年に乱暴しようとしてただろう?!」
二人はキョトンとしている。
「おい!お前、何汚ねえ尻出してんだ!」
「?あれ?なんでだろ?」
話が噛み合わない。
まさか、罠だったか!
また急いで宿に戻る。
部屋の前に着いた……
はずだった。
「部屋の扉が無い……。」
なぜだ。
ここにドアがあったはずなのに!
「カペラの魔術だよ。」
すぐそばから声が聞こえてそちらを見た。
大神官ザニスがそこにいた。
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