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第17話 信仰
「お前!何しに来た!」
シモンはレーザーガンを構えた。
「あの時はすまなかった。謝って許されることではないが…。」
ザニスは、あの時とは別人のように、狂気的なオーラが無くなっていた。
「……用件を言え。」
「私は、カペラの悪魔祓いを頼まれていた。ここにカペラがいる。会いに来たんだ。」
「じゃあ、さっさと悪魔祓いしてくれよ!」
レーザーガンで壁を示してやる。
「このレベルの魔術を使うということは、カペラがアマギを堕としているということだ。もう、アマギは手遅れ。カペラは人間には戻れないだろう……。」
ザニスは肩を落とした。
「決めつけんなよ!アマギは悪魔なんかに屈しない!」
シモンは壁を殴った。
「カペラはアマギが憎いのだ。自分と似たような生い立ちでありながら、君という恋人がいて、幸せになる可能性がある。カペラはアマギをインキュバスにして、一生不幸であって欲しいと願っている。」
「なんだソレ!自分勝手すぎるだろ!」
「カペラは幼い頃から汚い大人のおもちゃだった。いずれ、淫魔の力で権力者に取り入り、戦争を起こして全てを破壊するつもりだ。」
「生い立ちが不幸なら、何してもいいわけじゃないだろ。まんまとあんたをたぶらかすのは上手くいったかもしれないが、皆が皆、あんたらと同じだと思うなよ。」
ザニスは、寂しそうな笑みを浮かべた。
「……君は、強い人だね。私も、君くらい強かったら、カペラを救えたかもしれない。」
「アマギを救う方法は?」
「アマギ自身が、インキュバスの誘惑に勝つことだ。それはすなわち、彼の今までがどうであったかによる。過去を乗り越えるために淫魔になるか、過去を受け入れて人間として生きるか。今、我々が何かできることはない。」
シモンはザニスの目を見た。
嘘を言っているようには見えない。
「……暇つぶしに聞いてやるよ。あんたとカペラに何があったのか。」
シモンはレーザーガンをしまった。
「ありがとう……。」
「私は、友人の貴族から、カペラの悪魔祓いを頼まれた。
友人は男娼のカペラを好きになり、身請けをして男娼をやめさせようとした。
それをカペラは断った。
おかしいと思ったら、カペラはインキュバスと契約をして、自身もインキュバスになっていた。
私はいつものように、カペラに悪魔祓いの儀式を行った。
何度やっても、彼は心の中の悪魔を手放そうとしなかった。
そんな時、私の娘が妊娠をした。
父親が誰かは、わからないとのことだった。
娘が、そんな淫乱だったとは知らなかった。
相手の男も無責任だ。
私は、娘や、娘が選んだ男がそんな猿のように発情して、後先を考えない程度の人間だったことにショックを受けた。
カペラは、私の心の隙に気づいて、性欲に溺れた堕落した人間を粛正しよう、と持ちかけて来た。
そもそもカペラが淫魔になったのは、幼少期の過酷な性的虐待のトラウマから逃れるためだ。
カペラは、犠牲者なのだ。
私は彼に同情し、また、自分の正義を信じたくてカペラの魔力に堕ちた。
そうなったあとは、私に意思はなくなった。
カペラにとって邪魔な人間を粛正していった。
その一人がアマギだった。」
ザニスは言い終わると、ため息をついた。
シモンはザニスを睨んで言った。
「カペラにどんな理由があろうと、アマギは関係ないよ。俺は、あんたたちには同情しない。」
―――――――――――
アマギはカペラから何度も殴られたが、反撃はしなかった。
「僕は!誰にも愛されなかったよ!優しくされてもね、それは僕がおもちゃとして商品価値があるからさ!誰も、僕が悲しくても寂しくても辛くても、気づきはしないよ!」
カペラは力は弱い。
カペラの拳は時にアマギの歯に当たり、むしろ傷ついている。
「……なんで、ザニスに出会ったんだ?」
「僕を人間に戻そうとしたよ、あいつは。なんで、クソな人間の方が、悪魔よりいいって言うんだ!悪魔になったから、ようやく僕は生きられるようになったのに!」
「カペラ……シモンは、俺の過去を受け入れてくれた。お前にだって、お前の過去を知ってもなお、今のお前をいいと言ってくれる人が、いるんじゃないのか?」
カペラは殴るのをやめ、目を見開いた。
みるみるカペラの目から、涙が溢れる。
「いたよ!でも!もう死んじゃった!僕は!フェリス様を殺した奴等を絶対に許さないっ!!」
―――――――――――
「私の友人、フェリスは、濡れ衣を着せられて処刑された。財産は没収され、家は断絶だ。彼は、男娼好きだったがね、頭が良くて、正義感が強かった。政治的に重要な人物だったゆえ、周辺貴族からは目の上のたんこぶだった。
処刑前に会ったときですら、カペラに普通の生活をさせてやりたいと言われた。最期まで、一人の男娼のことなんかを気にするような男なんだよ。
カペラが悪魔を手放さないのは、淫魔である自分がフェリスの復讐をする手段だからだ。カペラは政治の細かいところはわからない。だから、フェリスを葬った、世の中全てを壊したいんだ。」
シモンは、無力さに打ちひしがれているザニスを見た。
「……あんたは、フェリスの愛を、ちゃんとカペラに伝えるだけで良かったのに……。」
「……ああ、そうだな。今になって気づいたよ……。」
突然、壁にヒビが入り、ドアが現れた。
シモンとザニスは急いで中に入った。
目の前に、見たことのない裸の男がいる。
金髪で髪は長く、碧眼だ。
男はカペラを抱きしめていた。
二人をまばゆい光が包んでいる。
「フェリス……!」
ザニスが言った。
カペラは泣きながらフェリスにしがみついている。
「なんてことだ……アマギ……お前は、インキュバスになったんだな。そして、カペラの望む相手に姿を変えているんだ……。悪魔に堕ちて、なおカペラを救ってくれたんだね…。」
ザニスはそう言って、その場にひざまづいて祈りを捧げた。
フェリスが言った。
『今がどんなに辛くても、この道の先に神などいないと思う時でも、私は必ずお前を待っているよ。カペラ…自分が幸せになることを許してあげて…。』
「うあ!うああっ!フェリス様……!フェリス様ぁっ!」
カペラの慟哭が響いた。
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