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踏みにじられる 4
下男の腕に抱かれていたセフェリノは、眠ったまま椅子に座らされていた。座面に静かに収まり、物音にも反応する様子を見せず、規則正しい寝息を繰り返している。
膚に触れた指をゆっくりと下ろしていった。怒りで気を散らされて萎えかけた陰茎を避けて、皮の薄い鼠径から内腿に、手のひらや指を使ってあえかな刺激を与える。擽ったさにぞわりと肌が逆立った。両手でその鋭敏な皮膚へ緩やかな愛撫を与える。決定的にはならない微かな感覚。
それは忍耐力を試すようでもあった。鼠径を撫ぜながらも決して性器には触れない。陰嚢の縁ぎりぎりの際 に指を押し込み上下させる。その指遣いはマッサージめいてもいる。
足の指先で床を踏みしめ、頭上に戒められた両手を握り締めて、アルヴァは息を詰める。心地よさを確実に感じていた。下腹の腸骨に繋がる起伏に母指を添わせて押し上げ、脇腹を揉まれる。下腹の陰茎に近いところを指がかすめた時、呼気が弾んだ。
両手で脇腹から肋骨を包みながら撫であげ、厚さのある胸筋までたどりつくとその隆起を乳房のように揉みしだいた。手のひらで覆い、指を深く沈み込ませる。
「…っ、ん……」
胸の先の両方の突起をグローブ越しの爪先でごく軽くはじいた。胸を揉むのと同時に指で挟まれ、ゆるく乳首を擦られると思わず声が洩れる。
皮膚の内側を炙るような責め苦を与えている男が笑ったのが聞こえ、自尊心が音を立てて軋んだ。
そこが敏感であることを知り、反応を窺いながら乳輪を何度かなぞった後に、乳頭に指の腹が触れるか触れないかの力加減で転がした。もっと強い刺激を求めるように芯を持ってくる。
指先で、やわらかくもどかしい弱さで挟み、かるく転がしていく。そうするとより硬さを持ち、ぴんと主張してくるのがわかった。
「好きかね? これが」
感じていると知られるのは、たまらない屈辱だった。
バルドは、胸に愛撫を与えながら片手で顎を掴んで顔を上げさせた。視線を合わせてから、勃起した乳首を強くつねりあげた。
「っ、く……ッ」
目を細め、眉根を寄せて喉を鳴らした。
焦れて欲していた不意の感覚に、無意識に体を跳ねさせる。爪先立ちになった足指が白くなるほど力が込もる。
半ば開いた口と宙を見る視線、声を抑え込んだ喉が動く様。それら全てが胸への刺激によるものだと、顎をとらえられ隠す術がない。乳首をつねられ、痛みよりも気持ち良さが勝っていると思われて仕方のない反応。それをひとつひとつ逃さずに拾う男の双眸の前にさらけ出される。
確かに性感を得ていることは、触られていないはずの性器が首をもたげているために明白だった。
再び両方の胸の先を爪先で軽くこする。それから先端を押し込まれる。
つんと硬く尖ったそれを執拗に弄られると、腰骨の後ろあたりがぞくぞくとしびれるようだった。快感が体の奥に溜まってくる。背中に、かすかに汗がにじんでいた。
出来るだけ反応を見せたくなかった。
卑猥な言葉を浴びせることもなく、全身の動きをつぶさに観察してくる男に、弱味を握らせたくない。
しかしそれは、他人と肌を合わせた経験がないアルヴァと、巧みに快楽を揺り起こす眼前の男との明らかな差からすれば、酷なほどに薄い望みだった。
体が火照りを帯び、こめかみに汗が玉を結ぶまで乳首への愛撫は繰り返された。
根元から摘み上げるようにしごく。芯を持った小さな突起に指の腹を滑らせる。グローブの絹地越しの爪先であくまで優しく、すりすりと撫でる。
柔らかい刺激で焦れた時に、構えていないタイミングを狙って押しつぶされる。そうされると自身の意志にかかわらず、背が反って、熱のはらんだ息が洩れた。
四肢を繋ぐ鎖が、憎い男の指で感じる己をなじるように、じゃりじゃりと反響する。
密室にどこからか入る、微細な風の流れさえ感じ取れるほどに肌の感覚は鋭くなっていた。
気位は高くとも潔癖すぎる膚が、その男の手管にあらがう方法を知るはずもない。どうしようもなく支配下にある。
それでも、アルヴァは眼前の男を射るように睨めた。示す反応は全て生理現象に過ぎないと、決して精神までは侵犯できないという態度を見せる必要があった。
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