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汚辱 2

(※浣腸、嘔吐描写があります。) 「高い気位に見あう慎ましさだ」  従僕に広げられた尻の間からのぞく小さな窄まりを見て、そう品評した。一々と反応するのも癪に思え、視線を俯けたまま動かない。  冷たく細いガラスの先端が、秘されるべき薄い皮膚に当てられる。味わったことのない感触に、わずかに息を呑んだ。 「入れるよ。アルヴァ」  愛情に似た響きさえ含んだ声が、そう呼んだ。  注射器の押子に手をかけるのと同時に、背後の従僕の腕と指にも力が籠もる。暴れるとでも予測されたのか、掲げた脚に腕を絡めて抑え込む。  アルヴァの長身で筋肉量もあり、平均より太さがある両脚を、簡単に片腕でまとめてしまう背後の男の体躯と膂力は並みではなかった。  それも徒労だ、と声には出さずに揶揄した。脳裏をよぎらせたそんな思考は、未知の恐怖から気を紛らす手段でもあった。  腹の中にぬるい液体が流し込まれる。思わず噛み合わせた奥歯に力が入る。  長い円柱に満ちていた湯が減ると、同時に下腹が膨らんでいく。アルヴァを襲った不快感は、本能的な忌避感だった。  一度目が全て腹に入りきるとバルドは二度目の湯を引く。  目を閉じて、その絶望を待った。  注射器の中身を注入する手付きは、おごそかで、儀式めいている。  三度目まで繰り返されると、腹は不自然に膨れて突き出てきていた。その形は見ただけで限界を超えていると理解する異様な張りであった。  呼吸さえ苦痛だった。何をしてもその苦しみをやわらげられない。  想像を絶する地獄の極感。冷や汗が額から垂れる。  脚を抱えあげられ、行き場を失った腹の中の水分は、胃腑と横隔膜を押し上げている。 「ぐ、ぅッ……」  迫り上がった嗚咽を喉元で抑えこんだ。  その真っ青な顔色が尋常ではないのは、明らかであった。  『苦しい』  そう言葉にすれば苦痛が、少しは楽になるだろうか。  理不尽に内蔵を押し広げる侵入物を追い出そうと、下腹が低く唸っている。  それでも、主君の座す空間で哀れを乞う真似はしない。アルヴァは両眼に傲岸な色を灯して開いた。  豪奢に着飾った男が、その視線を絡ませながら、再び甕から湯を引く。  見下ろす嗜虐的な笑み。 「君はどこまで私を煽り立てれば気が済むのだろうね」  尻穴に注入するために動かした押子にも抵抗があった。許容量を超えているせいで、もう湯は体内に流れ込めずに逆流しつつある。  注射器の先端を引き抜くと固く閉じていた窄まりが、ひくついているのがわかった。濁った湯が洩れ出て、尾てい骨に向かって一筋流れている。  決壊が近い。  眦を尖らせて睨みつけても、青褪めた顔色は誤魔化し様がない。  刻一刻と余裕を失っていく。  蹂躙されるのは、体だけではなかった。  どんな状況に置かれても、待つのが死であろうと、心根が高潔であれば悔いることはない。今までその自負を支柱に努めてきたはずだというのに。  それも生理現象を前にすれば簡単に崩壊する。  はらわたの中身のぶち撒ける行為による、自尊心の凌辱を予感すれば、眼の前が暗くなるような目眩を覚えた。  従僕もこの拷問の協力者であった。  アルヴァが苦しむ程に尻をわり開き、太腿を一層に高く抱え上げ腹に押し付けさせる。  腹の中で渦巻くものが、一分一秒を惜しんで解放を待ちわびている。  全身を支配する苦痛、それは生物としての本能的な恐怖。アルヴァは臀部に力を込め、最後の抵抗として、押し留めようとする。  不意に、胸郭の真下、胃のある位置が不随意的に持ち上がり、緊張と弛緩をする。  背後の男が、腿ごと腹を押し上げた。  排泄欲、嘔気。  意志とは無関係に襲いくるものは、生命活動の一端であった。命の危険を感じれば、思考を無視して衝き上がってくるものである。  瞬間、空のはずの腹の中が裏返った。 「っ……ぐ、ぅ……ぉ゛、え゛ぇ゛ッ」  どんな逆境にも、敢然と差し向かう清廉な美貌が、哀れなほどに歪んだ。  汗か涙かわからないものが目頭に溜まっている。  反射的にひとしきり嘔吐(えず)いた。内蔵ごと、体の内部全て吐き出そうとするような苦しみだった。酸で喉の奥が焼ける。  痛い。苦しい。  冷や汗に濡れた髪は、しなびたように頬と首筋にまとわりついている。  白目を剥きかけて、意識を飛ばしそうになった。指先と足先が冷え切っている。

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