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焦らし 1

 汚れた部分は布で拭われたが、その臭いは容易に除去できるものではなかった。  ほぼ肌を隠していなかったおざなりな麻のシャツは、ナイフで切り裂いて脱がされる。枷を外すという方法を取る気はないようであった。  全裸にされたアルヴァは囚人めいて、手錠の間の鎖を引かれて従僕に連れて行かれた。  開けた扉の中に押し込まれるように入る。  湯気が視界を霞ませる広い場所だった。浴場であるらしい。  従僕は声を発さず、顎をしゃくった。アルヴァは男が命じる通りに、置いてあった椅子に座る。抵抗は無駄な労力だった。  手桶から湯を頭から掛けられる。尻と太腿は、入念に流された。  顔を濡らされている間に別方向から伸びてきた手が、ぬるぬると肌を覆う。浴場には新しい召使いが入ってきたらしかった。  両手足を戒められているからとはいえ、貴族のような待遇だと思っていた。  抗わないのは意味がないからでもあったが、先刻の行為で心身ともに疲れているという理由もあった。  倦怠感で何をするのも億劫だ。痛みを与えられるだけの尋問ならば、ここまで憔悴することもなかったのだろうが。  温かさが全身に行き渡ると、少し気が抜けた。  見知らぬ者に肌をさらすのに、多少恥じらいもあったが、今更人の目を避けるのも手間に思える。  普段から男ばかりの組織に身を置き、誰の前でも堂々と振る舞うのが元来のアルヴァの気風だった。  しかし、石鹸をまとわせた手で、体の隅々を撫で回されると、奇妙に膚がぞわりと粟立ってくる。  バルドに施された指の感触が思い出されて落ち着かない。  髪を洗う男の指。もう一方から伸びる手が、背中から脇腹、臍の周囲をなぞる。  手錠を付けた両腕を、下男が促すとおり頭の上に挙げる。  骨格や筋肉を確かめるように撫でられる。  腋窩に添って指が這い、くぼみを押し込まれると、腰あたりがぞくぞくと微かに震えた。  すでに肌が敏感に出来上がっている。これも、バルドの企みか。  芯を持った性器が緩く勃ち上がっていた。羞恥に体が熱を帯びた。  その中心だけは隠したいと、かなわぬ望みをいだく。  今は体を清められているだけなのだ。それをまるで、性交の前戯のように感じているなどとは、他者に思われたくない。だがそれをどうしようもできず唇を噛んだ。  胸に触れる手が、ゆっくりと隆起の形をなぞった。女のそれとは比べ物にならないが、胸板は手を引っ掛けられる程度の膨らみではある。  上部は鎖骨から、横は腋から、繋がっている筋肉の流れに沿うように、最も高い部分を頂点として手のひら全体を押しつける。  その感覚に、執拗に弄られた乳首への刺激が無意識によみがえる。  胸の先は触れられていないのに、すでにつんと尖っている。  あれは明確に、快楽だった。摘まれ指で押しつぶされて感じていた。  バルドは肌への愛撫を与えても、決して下腹部で主張する欲望には触れなかった。男という性の本能で欲する解放を、絶対に施さない。  アルヴァを焦らし、追い詰めるためだ。  哀れっぽく浅ましい懇願を誘い、屈服させたいと望んでいるからであった。

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