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摩耗する 3
「愚かなものだ。誰も君を助けはしないのに、これを永遠に続けるのかね」
内壁を押すものは、決して強くはせず、神経の集まった性感帯になりうる陰嚢の裏側などを刺激しなかった。
そこを突き上げればすぐに絶頂してしまうほど、高められているためだ。
解放はいまだ与えられない。
アルヴァの細身の衣服の股間部分は、あまりにも窮屈に張りつめていた。大きく腰を動かすと精を放ってしまうだろう。
「想像してみるか? 私に抱かれる君を……そんな小さなおもちゃではなく、もっと長い深くまで入る、君の焦れてとろとろに柔らかくなったお尻の中をしつこく擦るものを、それの張り出たカリが君の良いところを好きなだけ引っ掻く様を」
腰から背中までに震えが走った。
がくがくと不随意に揺れる。けれども、引き起こる甘い痙攣は長く続かない。それは断続的で弱かった。
思考も緩んでままならない頭の中に流しこまれる声と、額や鼻先を撫でる硬い感覚が、脳裏に映るものを鮮明にする。
「……く、っ…ふ、ぅ……っん、ん……ンぅっ」
下着をつけていないために、カウパーで濡れて内側でぬるぬると滑る。
気を抜くと快楽を追いかけて腰を振ってしまいそうだった。性感が苦痛になっていく。
「我慢すればするほど後悔するだろう。焦らされるほど絶頂は深くなるのだからね……早く言えば良いのだよ。欲しいと、めちゃくちゃに犯してくれと、そうしたらそんな涎を垂らしそうな顔をしなくてもいいはずだろう?」
意志を強く持たなければ、目の前の硬いものに鼻腔を押し付けてしまうかもしれない。
卑猥な言葉でなじる男もまた興奮を味わっていると感じて、恍惚にひたってしまいそうになる。憎まねばならないのに、媚びる真似をしようとする。
「ン…ッ……ぅ、んん……ッああぁ……っ!」
また細かい震えが襲う。引き抜かれ、挿し込まれる淫具が粘膜を、ぬちぬちと滑っていくと腰が反り声が出る。喘ぎはすでに無意識になっていた。
もう限界だと体は訴えていた。与えられる激しい快感に身をゆだねてしまいたいと耐え難く疼き続けている。
本能では、意志が陥落するのを待ちわびているのだ。
一目見れば、頭の中がドロドロになっているとすぐに分かるような、目の縁を赤く染めてあわく濡れた瞳でバルドを睨む姿には、もはや威厳も何もあったものではなかった。
当人の意志ではなく、かすかに腰を揺らして、後ろで生殺しを続けている彼にも扇情的な姿を見せている。
男同士であれば、否応なく分かるであろうバルドの興奮の匂いに鼻をこすりつけられる顔は、間違いなく雄を求め子種を欲しているそれだ。
抱き寄せて口づけ、『たまらないくらいかわいい』と耳元で囁きながら気が済むまで甘やかしてやりたい欲求はあるが、アルヴァが望んでいるためにこの遊びに付き合っている。
この寸止めの地獄を欲するなら、一日を超えてでも延々と続けるだろう。
その末の快楽地獄に堕ちてしまいたいような、被虐的な体を満足させるだけの手管を与えてやろうとバルドは考えている。
だが、初めての体にそれは荷が重いかもしれない。
バルドが望んでいるのは、抜け出せない中毒になるような、脳から神経まで全身余すことなく溶かされ、すぐに次を欲しがってしまうような性交の甘い快楽の苦しみなのだ。
純潔であるからこそ、つけられる傷は根深くなるだろう。その後の葛藤に思えば、胸が高鳴る。
清らかな肌が、他者の欲望によって消えない痕を残されるのは、支配欲を満たす。
かの美しい騎士は、哀れになるほど気高く、愚昧なほどに忠信深い。
「王太子の睡眠薬はどのくらい持つと思うかね」
そんな囁きを流し込んだ。
「もしあの子が目を覚ましたら、君のこの姿を目にするのだろうね」
下腹を顔に押し付けられながら、視線だけをバルドに向ける。
「……あと、どれだけだ」
「すぐには起きないだろうがね。まあ、一時間程度か」
歯を噛み締め、押し寄せるもどかしい快感に侵食されながら懸命に思考を巡らせている。その間も、背後では抜き挿しを繰り返されていた。
「目を覚ましたらどうしようか。王子と一緒に、後ろの彼に君が犯されるところでも鑑賞しようか。彼も中々に上手い。あの体格だから、色んな体位も楽しめるだろうね」
他愛のないことのように、バルドは微笑を交えて囁いた。
びくんと腰を跳ね上げて、喉を反らす。
想像したのは組み敷かれる自身か、セフェリノの張り裂けるような嘆きか、知る由はないが、睨め上げた眼にはまだ凛々しさが残っている。
しかし後孔をうがつ淫具に、すぐに双眸は甘くゆるみ細められる。
「勿論、その前に君が私に抱いて欲しいとおねだりできたら、そんな酷いことはせずに済む」
何度も散らされる思考の中であがいているアルヴァは、シーツを握り締めながら押さえられている頭を振った。
「君の主を悲しませるのと、どちらがいいのだろうね」
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