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摩耗する 4

 自分から求めるまでは決して終わらせる気はない。  後ろに挿し入れることで粘膜に塗りつけられるオイルは、体を温めて性欲を促進する効果があった。  それは薬として作用する強いものではないが、時間をかけて塗り込み浸透していくと、耐えがたい疼きをさらに増幅させるだろう。  呼吸のたびに甘い喘ぎを混じらせ、頬も耳も首筋も赤く熱く染めているアルヴァが、まだバルドを敵意のある目で見上げられるのは、さすがの精神力だと言わざるを得ない。  それもすぐに、強制的にもたらされる快楽に潤んでしまうのであったが。  ベルベッドの上で、セフェリノがもぞもぞと寝返りを打つと、アルヴァは唇を噛み喉の奥で声を殺した。  王太子の眠りは浅くなっているようだった。  あともう少し。  堅牢であった意志も、陥落まで秒読みであろう。バルドは至上の喜びに両眼を細めていた。  無意識であるらしい腰の揺れが大きくなり、後ろの従僕が手をかけてそれを止めた。  衣服と擦り合わせて射精まで昇り詰めようと蠢かせていた。理性よりも欲求の方が強くなりつつある。現実と夢の境にいるようだった。  腰を押さえる手に気づいて、その自らの行為に思い至ると、ひどく恥じ入り噛み破るほど唇に歯を立てる。 「早く決めたまえ」  頭を持っている指で髪を梳き、撫ぜていく。  その感覚を振り払うことはかなわず、ぞくぞくと背筋を微かに戦慄(わなな)かせた。  首がのけぞらせ、さながら発情した獣のように、熱をはらむ息を長く吐いた。  湧き上がる歓喜が、一目で明白に感じとれる表情を曝す。 「苦しい、許してくれと言いなさい」  勃起を顔にこすりつけさせ、匂いをかがせ続けた。  シーツを踏む足指が丸まって、下腿も太腿も張り詰めている。  後孔にうずめられた淫具が、あとわずかに指先だけでも深く入れば絶頂するであろう反応だった。  ぎり、と奥歯が軋む音がした。 「王子がいつ起きるか私にも分からないのだよ。気持ち良くて悶え狂っている、この姿を見られたくないだろう」  伏せられた黒い瞳を覆う睫毛がわずかに濡れた。  忍耐を貫けない情けなさに、守り通してきた純潔を散らされる喪失感に、自己の矜持の根幹である忠誠心に、ぐらぐらと揺さぶられながらもどうしようも出来ない。  屈服を強いようとするのは、己自身の肉欲そのものだった。どれほどそれを忌避しても抗えず、身の内を灼くような悔しさを募らせた。  睫毛から目じりに溜まり、一筋流れ落ちる。 「……抱いてくれ」  眼前の膨らみに額を擦り付けて、そう呟いた。  涙絡みの小さな声だった。衣擦れ程度の聞こえるか聞こえないかの告白が、その口から洩れ出た。  バルドはついに目的を果たしたのだという確信に、喜色を湛えた。首に腕を回して、引き寄せて抱きしめる。 「可愛いな君は……言葉にならないくらいだ、堪らない……」  頭を撫で、頬にキスを落とす。  アルヴァは目を閉じて脱力したように俯いていた。 「手錠を外そう」  背後に座っていた従僕が体を起こし、アルヴァの枷を解く。  先刻までの煮え滾るような殺意も憎しみも、ほとんど薄れていた。自ら言葉に出した降伏に二言はない。  耐え抜けばいずれ終わるという希望的な考えは、すでに崩されてしまった。  耐えようとも耐えられない快楽と、生殺しの責め苦は永遠に終わらないのだという絶望。何よりも敬愛する主君にこの浅ましい姿を見せたくないという自尊心が、陥落に導いた。  他人の思惑ではなく、解放を求めたのが自分自身であったということもまた、敗北感を大きくした。  ベッドの上に仰臥し、シーツに背中を付けて、足側にいるバルドを意識しないように顔を逸らしていた。  留め具を外す音。  アルヴァの服は脱がされずに、脚だけを開かれた。 「この服はここも外れるようになっているのだよ」  そう言いながら、股のあいだに指をかける。そのパンツには通常よりも下の方にまで釦がついており、陰茎の真上の位置であった。  外せばベルトラインのみを残して、股間部分がぱっくりと開く。性器が全て曝け出されるようになっていた。  完全に勃起しきったそれが、待ちわびたように飛び出す。その様を見られる恥ずかしさに体が火照る。 「いやらしいな」  囁かれて、シーツに爪を立てて握り込む。  開かれた脚の間の露出した肌に、やわらかく触れた熱を感じた。 「君が涎を垂らしそうに欲しがっていたものだ」  想像よりも質量のある硬さに、思わず視線が吸い寄せられた。  屹立は臍の真下くらいまで届きそうな長さとその太さも、幹とカリ首の高さの差異も、見本にしたいほどだ。同性としての感嘆がこみ上げた。 「大きいな……」  そんな称賛が口をついて出る。  割礼を受けていない自身の象徴は、威厳がない気がして今までできるだけ人目を躱していた。  わずかに劣等感をいだくと同時に、今まで散々焦らされてきた体の奥がじくじくとひどく疼いた。  あれを受け入れるのだと想像すれば、それだけで浅い絶頂感が下腹にわだかまって、全身に震えが走りそうになる。  あの大きさが、自分自身に入るのだと考え、ごくりと喉を鳴らす。 「欲しいかね?」  アルヴァの着ているベストの前を開けながら、念を押すような言葉をかける。  眉根を寄せても、甘く潤んでしまっている目で見上げた。 「……二度は言わん」 「言ってくれないのなら、どうしようか」  バルドは、自身の下で勃起しているそれと重ねるように腰を進めながら、笑みをうかべている。  シーツに広がる黒髪をもてあそぶ。  受け取る全ての感覚が、快楽に変わる。黒いパンツの生地に包まれた太腿がにわかに緊張して、わずかに跳ねた。  後孔がひくひくと収縮し、中から溢れてきたオイルが流れ出す。吐息とともに、あえかな声が洩れた。  アルヴァは目を閉じていた。 「……入れてくれ」  唇が小さくそう動いた。  濡れた睫毛に乗る水の粒がひらりと眦に落ちて、滲んだ。  その美貌の息も止まるような秀麗さと色香に、思わず額を近づけて口づける。

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