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弄ぶ 4

 腰を送り込む早さは、あくまで緩慢だった。  気が遠くなるようなじっくりとした前戯の後の、濃厚な交歓によって熟れきった粘膜を味わっていた。 「……ふ、ッ…ぅ……」  タイル張りの壁に手をつきながら、時折熱っぽい息を洩らしている。  何度も絶頂させられたために、先刻ほどの焦燥感はなく声を抑えるくらいの余裕はあるらしい。  それでも浅く深くと、膨れた肉厚の亀頭を内壁に擦りつける抽挿を繰り返せば、背がわずかに跳ねる。  声を出さず我慢するのは、快楽だと感じたくない自尊心からだろうか。  受けた所行を許したつもりがないのに、それを歓喜にしてしまえば従服と同じだと抗おうと考えているのか。  その反抗的でいじらしい姿が、嗜虐心を湧き上がらせるのだと分かっていないようである。  そんな姿を見せるほど、自尊心を圧し折ってやりたいと思う男を喜ばせるばかりだというのに。  長く太すぎる剛直を一定の間隔で、柔い肉筒の奥に当てていく。  奥を突くばかりではなく返しのように張り出たカリで、浅い部分に引っ掛けるように腰を小さく動かす抜き挿しも織り交ぜる。 「……ん、っ……ぅ、ンッ……」  浅いところばかりを責めていると無意識であるのか、反った腰が少し上がる。  熱いひだが絡んで、奥まで突いて欲しいと言わんばかりに誘ってくる。  そういう時はすぐに深く挿入するのではなく、竿の半ばで媚肉を捏ねながら押し拡げ、もどかしい快感を与えて期待感を高めさせた。  手の中で陰茎がしとどに濡れて、味わっている快楽を伝えている。握ったりゆっくりと扱いたりと、そこへの刺激を主にはしない。  腰を引いてまた焦らし、高まっていく性感を限界まで溜めさせる。  太腿が震えて、深い抽挿を乞うように腰が揺れた。  爪先立ちになり、耐えているのか媚びているのか境の曖昧な反応を見せるようになってから、脇腹を両手で掴んだ。 「……ン゛あ゛ぁぁッ!」  頭を仰け反らせて、喉から声が絞り出た。  硬さも大きさも凶悪な存在感を持つ肉竿に、深く貫かれた瞬間、アルヴァは腸奥が押し潰れるような衝撃におそわれた。  足先が少し浮いたように錯覚した。  狙いすましたように深々と腰を打ち付けられ、一瞬にして絶頂まで昇り詰めさせられた。  腰から背までが、がくがくと震える。  ばちゅん、といっそ清々しいまでの叩きつけられる音。  自覚をする間もなく無意識に声を上げていた。抉られた腹の奥から出たようだった。  (むご)いまでの強烈な幸福感による痙攣から、息を満足に吸えずに口を開けて喘がせる。  目の前が白く光ったようにも思われた。  対面する壁に、薄くなった白濁を飛ばしたのにも気づかない程の長く深く絶頂の愉悦に溺れていた。  バルドに抱擁とともに与えられた甘ったるい恍惚とは質が違う。  許容量を優に超えた悦楽に窒息させられるようだった。その感覚は痛みにも近い。  痙攣と同時に、視界が明滅する。  背後の男に腰を固定されていなければ、膝から力が抜けて床に蹲っていたはずだった。  息をどれだけ吸っても苦しい。  震えが緩むまで、アルヴァは短く速まる呼吸を繰り返していた。

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