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弄ぶ 6

 片腕を掴まれ、空いた手は肩を持ち引き寄せられる。  射精欲を高めるための自己満足的な腰遣いに揺さぶられていた。  男が精液を吐き出せば終わる。  意識を保ち、ひたすらに耐えるだけだ。  道具とされるならそれでもいい。終わりを待つだけだ。 「ケツ叩かれて、チンポでめちゃくちゃに突かれてあれだけ善がるんだから、あんたは正真正銘マゾだよ」  顔を俯けて額を壁に押しあて、目を閉じていた。  嗜虐を満たすような罵りにも耳を貸さないように意識する。  しかし、硬く反り返ったものを擦り付けられると、下腹も太腿も強張ってしまう。 「……ッ…く……ぅ」  気を逸らしてやり過ごそうとしても、その形に押し開かれた内壁が、あまりに太く大きな怒張を嘗めるように味わう。  引き抜かれると、腰が動く。  体は意志とは無関係に、情交の快楽を追いかけている。  息も声も喉を締めて殺し、獣欲にしたがう突き上げを受け止めた。  時折たまらずに脚が慄えても、体を支え続けた。  引いては寄せてくる間欠的な絶頂感も、歯を噛み締めてやり過ごそうとする。  下腹が痙攣し腸奥が震える感覚にも、壁に爪を立てて意識を持って行かれないようにただ耐えた。  目の前が揺らいで霞む。  浴場をつつむ湯気によって高まった湿度に、滴る汗と共に体力が奪われていた。  塞がりきっていない肩の傷も、拷問めいた行為も強制される情交にも、心身が削られている。  体力にも頑丈さにも自負はあっても、もう体力も限界が近い。  アルヴァの意識を今留められるものは、反抗心だけだった。  思慕がなければ、物理的な接触でしかない。  奮い立たせているのは、敬愛する人にしか服わぬ矜持のみでしかなく、もはや自己暗示のように意志を現に縛り付けている。 「大好きなザーメン好きなだけ飲ませてやる……ッ! オラッ、奥に出すぞッ!!」  バチン、と尻から太腿に、背後の男の腰が叩きつけられ、強く肉がぶつかった。  それは一層に大きく密室に響いたように思われた。  腰骨ごと持ち上がる程押し付けられ、ぐぽっ、としたたかに潰される体内の奥深くの感覚。瞬間、視界が半分暗く切り取られる。  あびせられた卑俗な言葉は、蹂躙を好む男の嗜虐性の現れだった。  所有物の徴を刻み込むように腸奥で射精する。 「お゛ッ……ぁ゛…っ」  水底に溺没するように、肺腑から空気を吐き出した。何とか繋ぎとめている意識の中で息を吸う。  体内の白濁を掻き出すと告げたはずの男は、当然であるかのように腹の奥に注ぎ込んだ。  熱い粘膜の合間で吐精に跳ねる楔に貫かれて、壁とのあいだに縫い止められていた。  結露した石壁に顔をこすり付ける。  意識が泥のように重く黒い淵に引きずり込まれる。  目を開けていなければならない、と自己に言い聞かせ足先に力を入れようとも力が抜ける。  ジャハムに離された両手で壁に縋るが、瞼が落ちて膝が折れた。  腹の中での長い射精の後に、やっと剛直が引き抜かれ、失神するように崩おれた。

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