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暗淵 3

 肌に触れられ、ひそやかに息が弾ませるアルヴァの姿。  今まで性的な接触は想像もつかなかった。  その秀麗な容姿を女性達が放っておくはずもなく、引く手数多だったというのに一度も浮いた話がなかったのだ。  拒んでいたわけではないが、世継は爵位を賜ってから考えると言っていた。  出自の低さから断っていたのかもしれないが、あまりに興味を持たないために聖職者のようだとからかったこともあった。  信心深いほどに清らかだった。そのはずなのに。 「アルヴァを何と言って慰みものにした? 僕を盾にして脅したのか」  言葉にすれば泣きたいような気持ちになって、きゅっと喉が痛む。  涙が溢れそうになるのを歯噛みして耐えた。 「強制してはいませんよ。体を傷つけてもいない。行為に至ったのも彼の意志で、拒絶する方法もあった」 「詭弁だ!」  セフェリノは飄々と言ってのけるバルドを睨みつけた。  抵抗しようのない手管を弄したに違いないのに、高潔な騎士が肉欲に屈したとうそぶく男が許せなかった。 「結果的に快楽を得られたのだから、悪いことではないと思いますが」  悔しさに握り締めた手を震えさせた。  まだ幼さの残る大きな青い瞳が、潤んで揺れる。 「それに……彼が一番欲しがっているのは、殿下のはずだ」  再び仰向けに寝かせると、その体の上に指を滑らせていく。  胸板の緩やかな隆起を撫ぜ、その頂点の突起を指で軽く押した。 「っ、ふ…ぅ……」  布地越しに指先で先端を転がすと、太腿をわずかに擦らせる。  心地良さそうに吐息を甘く湿らせた。頬に赤みが差している。  眠りながらも性感を拾いあげる姿。  セフェリノはそれを目の当たりにして、腰から背に這い上がるものを無視できなかった。中心が下履きを持ち上げようとしている。  いつも傍にいたのに想像もしていなかった痴態に、言葉も出せず口の中が渇いた。 「アルヴァは貴方のためなら、どんな苦境も耐え抜くでしょう。全ては王太子殿下のためなのですよ」 「僕にどうしろというんだ」  セフェリノを見つめる男の瞳が、どろりと蜜のように細められた。 「今ここで貴方の愛する騎士を抱きなさい」  そう(そそのか)す声に、身を乗り出して声を荒げた。 「ふざけるな! 出来るわけがないだろう!」  怒りをあらわにするセフェリノに、喉を鳴らして笑う。 「でしたら、私が今ここで犯してもいいのですよ」  シャツ越しに硬く(しこ)った胸の先端を、軽くつまみ捏ねる。  瞼が動いて、喉を鳴らすように息を洩らした。 「……ぅ、あぁ…っ……」  布の上から爪先を滑らせるのもたまらないというように、脚をすり合わせ腰を微かに動かした。  眠りの中で、アルヴァは執拗な指遣いに隠す術もなく快楽を露わにしている。  セフェリノは自らの衣服を掴んで引っ張った。  自己の膨らんだ前を覆うためだった。 「私が行為を強いたという建前が必要であれば、そういうことにしましょう」  アルヴァから離れ、バルドは手を伸ばしてくる。  窮屈そうな股間の上に手をやり留め具を外した。  それを跳ねのけようとした手は、簡単にバルドに防がれた。 「嫌だ……」  セフェリノは顔に片手をかざす。下着を解かれることにも抵抗する気力をなくしていた。  外気に触れる充血した自身から目を逸らしていた。

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