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暗淵 4

 秘めてきた好意は、下卑た欲と同じ願望ではなかったはずだ。  信頼し慕っているからこそ、下心とは切り離したかったのに。  そう考えても、脚の間のものは、涎を垂らさんばかりに勃起している。  バルドが見せつけるように、アルヴァのレザーパンツの尻辺りの小さな(ボタン)を開けた。  尻部分から縫製の繋がっている、股のあいだから前面部分にも、全て釦がついている。  下着はなく、それを開けば性器から双丘の奥まりまでが露出する。  セフェリノはとっさに視線を反らした。  見てはいけないものだと反射的に思っていた。  しかし、そんな内心を弄ぶように、アルヴァの力のない脚を持ち上げ、尻を割りひらき後孔を曝した。 「ここに貴方の男根を挿れるのですよ」 「……いやだ、と言っているんだ」  バルドは、年若い青年の勃起にやさしく触れながら微笑を浮かべる。 「しかし殿下の象徴は、騎士の狭い穴に入りたくて仕方がないと言っていようですね」  セフェリノは指摘され、羞恥に顔をそらして首を振る。  口を開けば、しゃくり上げてしまいそうだった。  憎むべき男に泣いている顔など見られたくなかった。  心と本能が乖離している。  まるで性交のために誂えられたかのようなその衣装から、卑猥にのぞく窄まりに男が指を差し挿れる。  すでに潤んで、ぬちゅぬちゅと粘質な音を立てる。  筋張った長い指を二本、難なく呑みこんでいた。  柔らかそうに拡がり、淫らな水音を立ててセフェリノの意識を誘導する。 「見たくない……」  無意識のうちに目頭から溢れて頬を濡らした。  恋心にもなれなかった淡い感情が、肉欲をまとって濁る。  押し拡げられ媚肉の中までが見えそうだった。  ひくひくと息づいており、そこで陰茎を包み込まれれば気持ち良いだろうと想像する。  セフェリノの脚の間のものが、ぴくんと僅かに跳ねた。 「抱きなさい」  バルドは空いた手で青年の腕を掴み引き寄せた。  興奮は隠しようもなく本能による獣欲に抗う術はないのだった。  自己で慰めるにも、この痴態を思い浮かべて行なうのならば情交と同じだ。  八方塞がりの状況に追い詰められていた。 「敬意だとか、兄弟の情に似た思いだとか、そんなものは色情から目を背ける聞こえのいい嘘だ……本当は彼とセックスがしたくて堪らなかったのでしょう」  なぜ泣いているのだろう。  焦がれるほど想ってきたその人との繋がりの形を、自分自身に否定されたせいか。  嫌悪したくなるような衝動が制御できない情けなさを悔いているためか。  バルドの囁きが、心の底を白日にさらすように真意を抉ったからだろうか。  『抱きたい』  恋情とは、目を背けたくなる欲望に直結できるものかもしれない。  恋心を深くまで切り開けば、劣情と区別がつかなくなる。  清らかな想いなど幻想でしかなかったのだと気づいた。  濡れた目元から頬を乱暴にこすって、セフェリノは腰を両手で掴んで引きつけた。  下腹で反り返り、痛いほどに充血している。  経験したことがないほどの硬さで、腹に付きそうに上を向いていた。  それを押しつける。  潤んで歪む目の前を睨みながら、自己の手でやわくほころんだ穴に合わせた。  掻きわけるように先端をうずめていった。 「……ん、ん…っ……あぁッ……!」  バルドの手から離れた両脚をシーツに立てて、アルヴァは腰を浮かせる。  そんな反応を見せながら目は覚ましておらず、淫猥な夢の中にいるらしかった。  無意識だというのに快楽を求める姿に、セフェリノは煽られるように腰を打ち付けた。  余裕のない性急な自慰めいた腰遣いで、とろけるような熱をはらんだ襞を擦り上げた。 「ンッ……んんッ……っふ、ぅ……」  甘ったるい声を洩らして、侵入物を締めつけ柔肉を絡み付かせる。

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