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暗淵 5

 敏感な粘膜のどこを押し込んでも、アルヴァは恍惚と息を喘がせた。  整いすぎている白皙は、表情がなければ冷淡でもあったが、それ故に官能をあらわにする美貌の淫靡さが際立つ。その対比に情欲を煽り立てられる。  奥まで挿入させた陰茎が、あまりにみっちりと深く嵌まり込むせいで、セフェリノは腰を引くのにも精一杯だった。  打ち付けるたびに、尾てい骨から会陰、下腹までに痺れるような性感が駆け上がってくる。 「気持ちいい……吸い付いて、きつくて、っ……」  譫言めいて、セフェリノはそう低く呟いていた。  傍でその様子を見ているバルドが、仰け反ったアルヴァの胸元に手をやった。  シャツ越しにぷっくりと浮き上がった乳首を捏ねる。  硬く勃起したそれを指でつねると、浮かせた腰がぞくぞくと痙攣した。  内壁を擦られながら乳首を押しつぶされて、レザーパンツの開いた股間部分から露わになっている性器がびくんと跳ねた。 「……イっ、く……ッ」  目を閉じているアルヴァがそう声を上げると、鈴口から薄まった粘液がわずかに零れて、シャツの腹辺りを濡らした。  思考すれば後ろめたさを意識してしまう気がして、セフェリノは単調な挿抜に没頭するしかなかった。  必死に快楽を求め続けた。  泥沼のような逃げ場のないこの行為も、一度射精すれば終わるはずだった。  媚肉の間に挟まれた陰茎を、ぎゅっと食い締められて、極まりが近づくのを感じた。  罪悪感がありながら、性感に身を任せてしまう自己嫌悪からのがれたい一心で、腰を押し込み、射精を意識した。 「出る……っ」  陰嚢が収縮する感覚に絶頂が近いとさとった。引き締まった腰を掴む手に、無意識に力が籠もる。  熱い感覚が放出に向かって昇ってくる。押し付けた下腹がぶるりと震えた。  その瞬間は、歯の根が合わなくなるほどに気持ち良かった。  温かく潤んだ隘路の中に劣情が吐き出される。  セフェリノは痺れるような甘美な解放感に動けずに、深く歓喜に浸っていた。  時間の感覚も忘れるような余韻が引いていく。  言葉を出す気力もなく、セフェリノは体を離した。 「……満足か、これで」  小さくそう言い、睨みつける。  その憤りとやるせなさを含んだ声を聞いたバルドは、くすりと笑みを立ててうなずいた。 「ええ。良いものを見せて頂きました」  下着が汚れるのも構わずにセフェリノは、自らの秘部を隠すように衣服を引き上げる。  味わった快楽とは裏腹に、心情は暗く沈み込んでいた。  これまで、情事とは心を通わすものだと夢を見ていたのかもしれない。  幸せな行為であるべきだと理想があった。  快感を得るための自慰めいた行為であるはずがないと思いたかった。  帳から出ると、セフェリノはベルベッドのソファに体をうずめた。 「宮殿を取り戻したとして、卿が求める見返りは何だ」 「財や地位は求めません。私が欲しいのはアルヴァだけでありますから」  傍に腰を下ろしたバルドは、飽くまで穏やかに言った。 「王太子殿下つきの敬虔な騎士として忠義を貫きながらも、私の恋人として身を捧げる。……清らかな心根と食い違う好色で貪欲な体を持て余し、私に抱かれるしかない葛藤に苦しむ姿は美しいでしょう」  セフェリノは険しさと訝しさを宿したまま、男を睨んでいた。 「……だったらどうして僕に抱かせたんだ」  男は微笑をうかべ、かたわらの冷めた茶を品良く手に取る。 「貴方がたの関係が崩すつもりはありませんので」  琥珀色のそれを、ひとくち舌先にのせる所作も、嫌味なほどに整っていた。 「忠義という心の依りどころを失えば、気高い騎士の美しさはたちまち枯れてしまいますから」  甘く低い擦れるような笑みを含んだ声音が、セフェリノの耳殻に絡んだ。  バルドの言葉に悪意はない。  しかしそれ故に、理解のできないおぞましさを浮き彫りにする。 「だからこそ貴方がた主従の情交は、想いを確かめ合う行為でなければ……睦まじい行為の後に、自ら慰み物になるため体を開かれる心情を考えると、すぐにでも勃起してしまいそうでございます」  それは、歌うような甘美さで紡がれた。

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