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第2話(何故か一緒にご飯に…)
「ありがとうございました、お気をつけてお帰り下さい!」
最後のお客さんを送り出し、ふぅーと一息をつく。
「雪お疲れ~」
しつけ教室を終えた律がやってきた。
「律もお疲れ様。ようやく落ち着いたね」
この1ヶ月休み返上で毎日忙しく働き、明日がようやく休みの2人がお互いを激励した。
「いや~前のお店から来てくれるお客さんが結構いるとは思ってたけど、新規の人が意外に多かったな!」
「うん、本当に。僕ビックリしたよ」
疲れてるけど、色々な人に来てもらって嬉しそうに雪が話す。
そんな雪をニヤニヤしながら律が、思わせぶりな事を言ってきた。
「トリミングのお客さんもそうだけど、しつけ教室のお客さんも結構KS動物病院から聞いて来たって言ってたぞ。あの事があったから紹介してくれたのかな?雪、また触らせてやれよ」
「もう、からかわないでよ! あれから忙しくて全然顔も合わせないから向こうも忘れてるよ!」
(ていうか、忘れてるよ! 恥ずかしくて顔合わせられないし。いくらビックリしたからって逃げたから印象悪いよな~)
雪は、とっさに逃げた事を後悔しているようだった。
「でも、KSは人気の病院なんだな、ここに来る人みんな先生達が凄いって言ってるぜ。顔だけで人気ではないんだな」
雪もそこは納得していた。ここで働き出してからお客さんからKSの事はよく聞いた。
イケメンだけど、クールで塩対応な斉川院長。でも診察は的確で手術の評価も高い。
方やイケメンで、いつもニコニコしている倉木副院長。優しく患者さんに寄り添うのでファンが多いそうだ。
正反対の2人だが、大学の同期でずっと一緒だから仲が良いのだろう。
雪があれこれ考えてると、律が雪の肩を抱く。
「まっ、明日は休みだから久しぶりに飲みに行こうぜ! 可愛い子いるかもよ!」
「もう、律はいつもそればっかり! ちゃんと好きな子作りなよ!」
「俺は可愛い子が好きなんだよ。楽しく遊べればそれで今はいいよ、本気は怖いしな」
意味深に律が言う。
「まあそれは分かるけど…」
雪は、小さい頃から男女問わず言い寄られて、大変な目に合うこともあった。その度律が守ってきたから、2人とも恋愛の本気、執着には怖い思いをしてきたので、雪は恋愛自体が怖い、律は本気になるのが怖いという思考になったようだ。
「でも、KSの人達はみんな美形だよな?
看護師さんも可愛いし、先生2人はビックリするくらいイケメンだもんな」
思い返したように律が言い出した。
「そういえば看護師さんの名前斉川って言ってたよな? 斉川先生と兄弟とかなのかな?」
「そういえば同じだね、ビックリして考えてなかったけど、似てる顔立ちしてたね」
「でも、看護師さんはニコニコしてたけど、先生は怖かったな~」
2人がそういいながら、KS動物病院の前を通って駅前の居酒屋に行こうとしたら、ちょうど3人が出てきた。
「あっ、村田さん、今家さんこんばんは」
元気よく看護師さんが声をかけてきた。
「あっ! こ、こんばんは!」
2人とも慌てて挨拶をした。
(さっきの聞かれてないよね?)
ドギマギしながら、雪は斉川の顔を見た。
今日も不機嫌そうな顔をしている。
「君達も今日はおしまい? いつもより早いね。」
倉木がいつも通りニコニコと聞いてきた。
「あっ、ハイ。今日は早めに終わったから雪とご飯行こうと思って」
律が答えると、
「じゃあ俺達と一緒にご飯行こうよ! 俺達も久しぶりに入院患者がいないからご飯行こうってなったんだよね。せっかくお向かいにきたんだし、同じ職種として歓迎会しないとね!」
倉木の発言に、雪と律は一瞬固まった。
「いや、そんなご迷惑ですし、僕達は遠慮しますよ」
雪が慌てて断ると、
「せっかくだし、一緒に行きましょうよ。私もいつも同じメンバーなんてつまらないし、トリマーさんの話も聞きたいし」
看護師さんが再度誘いをかける。
「じゃあ行きましょう!」
あっさり律が折れてしまう。
(おいおい、律、早いよ! 可愛い子の言う事はすぐ聞くんだから!)
雪は内心思いながら、しぶしぶみんなの後をついて行く。
(そういえば、斉川先生は否定も肯定もしないんだ。意外だな~他人と一緒とか嫌そうなのに)
そう思いながら自分の少し前を歩く斉川の横顔をそっと眺めた。
(本当にイケメンだな~今までこんなにカッコイイ人に会ったの初めてだ)
眺めながら考えていたせいか、段差に気づかずつまずいてしまう。
「あっ!」
転ぶと思って瞬間、ふゎっと体が浮いた。
(????)
ビックリして上を見ると、斉川の顔が。
どうやら斉川が転びそうになった雪を、抱き抱えてくれたらしい。
「す、すいません」
焦った雪が、斉川の腕から降りて謝った。
「雪、大丈夫か?」
「村田君大丈夫?」
各々心配の言葉をかけてくれるが、肝心の斉川はまたスタスタ歩いて行った。
「すいません、ぼーっとしてて段差に気づかず。斉川先生が助けてくれました」
「あいつ瞬発力はあるからな」
倉木が笑って言う。
「さっ行こう」
「は、はい」
雪も今度は転ばないようにみんなの後をついて行く。
(あっ、僕謝っただけで、お礼を言ってないや、後でお礼言わなきゃ! でも、話してくれるかな?)
若干不安に思いながら歩いていく。
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