4 / 42
第4話(さくらの妄想)
(もう、律の奴、自分がこれ以上追求されるのが嫌で僕に言ったな!でもお礼するチャンスかな?)
気を取り直し、雪は言う通りにおずおずと斉川の隣に座り、空いたグラスにビールを入れる。
「先生どうぞ」
「…ああ」
斉川が、雪を見ながらボソッと言った。
(返事してくれた! 機嫌悪くないのかな? )
雪は今ならお礼を言えるかな?と心に決めた。
「えーっと、斉川先生、さっきは転びそうになったの助けてくれてありがとうございます。あと先月の挨拶の時、最後逃げちゃってすいません。ビックリしちゃって…」
言った後、雪は恐る恐る斉川の顔を見た。
何か文句を言われるかと思ったからだ。
だが、斉川の顔は不思議な表情を浮かべていた。
(あれ? 怒ってない? なんか何ともいえない顔をしてる。なんで? 僕ちゃんと謝ったよね?)
雪が考えてると、斉川の手がそ~っと雪の頭に伸びてきた。
「こら、和希! 断りもなく雪君の頭触っちゃダメって言っただろ」
倉木の言葉に、斉川の手が止まる。
「雪君ごめんね、こいつ相当雪君の頭の触り心地が気に入ったみたいで、触りたくてうずうずしてるんだよ」
呆れたように倉木が言った。
(先生は僕の頭を触りたかったのか?)
「あの、先生僕は犬じゃないですよ?」
当たり前の事を言う雪に、
「分かってる。でも触りたい、触っていいか?」
今度はちゃんと断りを入れる斉川に、雪はまた顔が赤くなってきた。
「そんな改めて言われたら、余計緊張しますよ!」
「じゃあ、突然触っても逃げないか?」
(うっ…それはそれで恥ずかしいぞ。どっちがマシなんだ? っていうか触らせなきゃいけない前提じゃないか!)
納得がいかない雪だったが、斉川の目線が諦めそうのないと感じて「ど、どうぞ」と、おずおず頭を傾けた。
フワッ!すかさず斉川が雪の頭を撫で出した。
(うわ~これ改めてやられると恥ずかし過ぎる…先生は全然平気なのに、僕だけ恥ずかしそうにしてるのはおかしいよね?)
もふもふもふもふ…もふもふもふ…もふ…
「ちょっ!先生、長すぎますよ!もう終わりです」
この羞恥心に耐えられず雪はストップをかけた。
「はは、和希よかったな!触らせて貰えて。前回からずっと触りたいって言ってたからな」
「それ、もう変態じゃないですか?」
「ね? ワンコ似の子を見つける度に触ってたらそのうち捕まるよ。私お兄ちゃんが変態で捕まるのヤダよ」
みんなが笑いながら斉川をからかう。
(先生はワンコ似の子を見るとすぐ触るのか、僕だけじゃないんだ…)
ふっと寂しい気持ちになった。
(いやいや、なんで残念そうに思ってんだ)
自分の感情に驚いて自問自答している雪の傍で、
「今まで触りたいと思った奴は雪だけだ。他の奴の頭なんて触りたいと思った事はない」
(えっ?)
雪は驚いて斉川の顔を見た?
(今、雪って呼び捨てにした?しかも僕だけ触りたいって言った?)
「なんだ? お前も俺をただの変態だと、思ってたのか?」
「いやいや、和希。雪君が驚いてるのはそこじゃないと思うよ」
倉木はニヤニヤしながら言った。
(斉川も全然自覚なく発言するからな。この2人の今後が楽しみだな~)
倉木はニヤニヤ、律は良くわからずキョトンとしてる横で密かに妄想を繰り広げてるさくらがいた。
そう、何を隠そうさくらは年季の入った腐女子だ。BL大好き、妄想大好きと、自分の恋愛そっちのけで日々妄想を楽しんでいた。
(そっかそっか~お兄ちゃんと雪さんか! アリね、アリよ! 今までお兄ちゃんと翔さんで妄想してたけど、どっちも攻めっぽいから、余りしっくりこなかったのよね。お兄ちゃんと雪さん、翔さんと律さん。淡々と爆弾を落とすお兄ちゃんと、恥ずかしがる雪さん。まだ翔さんの言葉をからかわれてると思ってる律さんと、からかいながらも少しずつ距離を詰めていく翔さん!)
(やばっ! 最高のカップルかも)
(お兄ちゃん、翔さん頑張れ! 私は2人を応援しますよ! これならはもっと集まる機会を増やさないと)
ニヤニヤしながら妄想を繰り広げてるさくら。
各々思いは違えど楽しい飲み会になったようだ。
ともだちにシェアしよう!