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第5話(安田登場、その時斉川は…)

「あ~楽しかった! また皆で行きましょうね!」 律が無自覚で言う。 「私も面白かったです。お兄ちゃん達だとつまらないから、また律さん、雪さんも一緒にご飯行きましょうね」 さくらが自分の妄想の為に言う。 (なんで、この2人はこんなに乗り気なの? もしかしてさくらちゃんも律が気に入ったのかな? なら律は喜ぶから僕も協力しよう) 全く見当違いな事を考えながら雪も頷く。 斉川は無言、倉木はうんうんと頷くだけだった。 「じゃあ俺らはこっちの方なんで。今日はご馳走様でした」 「ご馳走様でした」 歓迎会と称して斉川がご馳走してくれた。実際は倉木が強引に押し付けただけだが、斉川は特に文句も言わず払っていた。 雪と律はお礼を言って歩き出そうとした時、 「あれ? 雪君じゃない?」 スーツを着た男が、すれ違いざまに雪に話しかけてきた。 「あっ、安田さん」 雪が一瞬困った顔をしたが、直ぐに笑顔になる。 「安田さん、今お帰りですか?」 「うん、仕事が遅くなってね。でも帰りに雪君に会えたからよかったな、仕事残業したかいがあったよ」 「はは…」 雪は困った様に笑った。 「来週、シルクちゃんのトリミングですね!お待ちしてますね」 では、と切り上げようとする雪に、 「そうそうシルクが少しお腹を壊してて、その事で相談したいんだ」 安田が引き止める。 自分がトリミングしてる犬の事を出されると断れない雪は安田の話に足を止める。 その様子を見て律は、 「クソッ! 雪が断れないの知って犬を利用しやがって!」 怒りをあらわにした。 「律君、あの人は誰だい?」 倉木が小声で律に聞いた。 「安田と言って、前のサロンから雪を指名してるんですけど、雪を口説こうとしてる奴ですよ。トリミングしてくれたお礼とか言ってご飯に誘ったり、トリミングの時間を最後にしてお店で雪とずっと話したり、ご飯とかは断ってますがお客さんなんで無下に出来なくて…」 「雪君は帰る所かい?もう遅いし危ないから送ってくよ!」 「えっ? や、安田さん? 」 強引に安田が雪の肩を抱き歩き出そうとした。 「あ、あの野郎!」 律が慌てて、止めに入ろうとした時、 「雪!」 斉川が急に声をかけた。 「帰るぞ!」 一言言った斉川は雪の肩を抱いてる安田の腕を剥がし、自分が雪の肩を抱いた。 (先生?) 雪がビックリして斉川を見上げたが、斉川は無視してスタスタ歩き出した。 「雪、待ってくれ!」 慌てて律も追いかける。 「じゃあ俺も律君を送ろうっと」 倉木が続く。 「じゃあ私も~」 さくらが嬉しそうに追いかける。 残されは安田は急にイケメンに雪をさらわれてポカンとしている。 だいぶ歩いた所で、 「家はどっちだ?」 斉川が聞いてきた。 「あっ、あっちです。あの先生、そろそろ肩を…」 「あいつが追いかけてきたら困る」 雪が言ったが、斉川は無視して雪の肩を更にギュッと抱き寄せた。 (どうしよう、これは恥ずかしがる…でも先生は安田さんがまた来た時の為だって言ってたから意味はないんだろうけど…) 雪は、また顔が赤くなってきたのを斉川にバレないように、俯きながら歩き続けた。 そんな2人を後ろから見ていた倉木が、 「律君、俺も~」 と言って律の肩を抱く。 「ちょっ、やめて下さいよ! 俺は女の子じゃないし」 あっさり律にかわされ、残念がる倉木。 さらにその後ろをさくらが妄想爆発させながらトコトコついて行く。 「あっ、ここです。ここのマンションです」 駅から少し歩いた位にある高層マンションで足を止める。 「へー雪君凄い所に住んでるんだね? お金持ち~」 「違いますよ! 兄の会社の物で社員は格安で住めるから、僕と律が一緒に住んでるんです」 「お兄さんがいるんだ?」 「はい、3歳上の兄がいます。多分先生達と同じ年かと」 「へー俺らとタメか」 その間も斉川は雪の肩を抱いている。 「あの、先生そろそろ…」 雪が言うと斉川は大人しく腕を離した。 「送ってくれてありがとうございます、おやすみなさい」 そう言って雪と律はマンションに入っていった。 その後ろ姿を無言で斉川が見送る。 「ほら、和希帰るぞ! お前のせいで無駄に歩いたぞ!」 倉木が、文句を言いながら元きた道を戻る。 ジロっと倉木を睨み、斉川とさくらも後に続く。 __________________ 「雪、よかったな。先生に送ってもらって」 律が頭を拭きながら風呂場から出てきた。 「もう、律早く服着てよ! 裸でウロウロしないでよ」 「ズボンは履いてるからいいだろ? なあ、斉川先生は今までお前を口説いてきた奴とかとは違うな?」 「律! 斉川先生は安田さんから僕を助けてくれただけで、口説こうとなんて思ってないよ!」 雪が慌てて否定したが、律は続ける。 「そうか? あの先生、患者とかには全然塩対応だし、人間にも興味無さそうだから雪への態度は特別に感じたけどな? 今まで俺が守ってたけど、そろそろ卒業か~?」 雪をからかいながら、笑う。 「もう、そんなんじゃないよ! 早く寝よう!」 雪は顔が赤くなるのをバレないように自分の部屋に入った。 (ふうー、今日は色々あったな。斉川先生は本当に変わってる。毎回ビックリさせられるからドキドキが止まらないよ!) 「ねえ、プリン? 誰だって急に触られたり肩抱かれたりしたらビックリするよね?」 雪は愛犬プリンに話かけた。 「…」 プリンはしっぽをフリフリして撫でてもらうのに必死で雪の言葉には無視をする。 「もう、プリンまで僕の言うこと無視して~。今日一緒に連れて行かなかったから拗ねてるのか? 今日は去勢してない子が来るからプリン追いかけ回されるだろ? だから今日はお留守番だったんだよ!明後日は一緒に行こうね」 プリンをもふもふと、モフりながら雪は眠りについた。

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