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第6話(倉木のお誘い)

「先生、どうですか?」 心配そうに飼い主が問いかける。 斉川は黙々とチワワのお腹を超音波で見ている。しばらく黙っていたが、 「子宮に膿が溜まってる。このままでは危ない。直ぐに手術しないと! 」 そう言うと、さくらを呼んだ。 「さくらオペの準備だ!」 「は、はい!」 さくらが慌てて準備をしだした。 「ちょ、ちょっと待って下さい! 先生、突然手術って! うちの子そんなに悪いんですか? 説明お願いします!」 飼い主が斉川の腕を掴み、聞いてきた。 「この子は子宮蓄膿症です。子宮に膿が溜まっていて、陰部からも膿がでてるし、食欲無いのが一週間続いている。超音波で見たら子宮がパンパンになっている、すぐにしないと数日で死にますよ」 淡々と説明する斉川に、唖然とする飼い主。 「ほら、院長はオペの準備に入って、後は俺が説明するから」 倉木が横から、入ってきた。 「頼む」 一言言って奥に引っ込んでいった。 「近藤さん、ビックリさせましたね!院長は一刻も早くララちゃんの負担を軽くさせてあげたくて手術を進めてるんですよ」 優しく飼い主に話かける。 「そうだろうけど、一週間までは元気だったから実感わかなくて」 飼い主は少し不満そうだったが、 「院長先生は腕もピカイチだから、心配はしてないけど…もう少しね~優しく言えないのかしら。でもララは懐いてるから信頼はしてるのよ」 「そうですね、ララちゃん10歳ですが貧血が少しあるくらいで、血液検査も異常ないので大丈夫ですよ。終わりましたら連絡しますね」 そう言って受付に促し、さくらに手術同意書にサインをお願いした。 「ふうー。全く和希の奴、病気見つけると飼い主への配慮なんて、忘れてしまうからな。フォローも大変だよ」 倉木が、帰って行った飼い主の後ろを見ながら、愚痴を言った。 「お兄ちゃんには、何回も言ってるんだけど、人間より動物だから、全然聞かなくて」 さくらも嘆きながら、倉木と一緒にオペ室に入る。 「倉木、早くしろ。さくらララのお腹の毛を剃ってくれ」 「ハイハイ」 みんな手早くテキパキ動き、ララの子宮摘出に入る。 「うわ!子宮パンパンじゃん! よくララちゃんもったね!」 「ホントだ! 今までで一番大きいかも」 開腹した子宮を見て、さくらも驚いて言った。 「こんな小さな体で、こんなに膿が溜まってたら具合いも悪くなるさ」 ブツブツ文句を言いながらも、斉川は手早く子宮を摘出する。 「終わり」 カランカラン 寛子やメスを、膿盆に置いて斉川が言った。 「翔、近藤さんに電話しといて」 「お前がやったんだからお前が電話しろよ」 「俺がすると簡潔だから質問攻めに合う」 「だから、丁寧に説明しろよ!」 呆れたように倉木が諭す。 「お前…そんな冷たいと、また雪君に怖がられるぞ!」 その言葉に洗っている手が止まる。 しばらく考えた後、「わかった」と電話しに行った。 (ほー、あの和希が人で動くとは雪君、さすがだな) 笑いを殺しながら、倉木が笑う。 (お兄ちゃんが変わっていくわ) こちらも、ニヤニヤがとまらないさくらが、妄想を膨らませる。 電話を終わらした斉川が、戻ってきた。 「近藤さん大丈夫だったか?」 「俺が電話したら、ビックリしてたぞ? とりあえず夜に面会にくるらしい」 どうやら質問攻めは免れたらしい。 「しばらく仮眠する」 斉川は、仮眠室に入って行った。 「最近、夜オペが続いたからお兄ちゃん寝不足になってるね」 「あいつは、急患が来れば受け入れるだけ受けるから、寝る時間が無くなるんだよ!程々にしないと倒れるぞ」 一応親友として、斉川の体調は心配する倉木だった。 (あいつも少しは恋愛でもすればいいのに。学生時代からモテまくってたのに、全く興味を示さないからな~。雪君に興味が湧いてるのはいい事だけど、自覚ないもんな~。さてどーっすか! 雪君も積極的な方じゃなさそうだし~。う~ん…) 仕事とは全く関係ない事を考えながら、サクサク仕事を終わらせる倉木だった。 (そうだ!この事をネタに律君を誘ってみよ~) こないだの歓迎会で、律とLINE交換した倉木は、ウキウキと律にLINEした。 ピコン 「あれ? 倉木先生からだ? 」 仕事が先に終わって家で雪の帰りを待っていた律は、倉木のLINEに驚いた。 「獣医って忙しそうなのに、この時間に連絡くるって、あの人は暇なのかな?」 1人でブツブツ言いながら、倉木のLINEを見る。 (雪君の事で聞きたいことがあるから、食事行かないか? ご馳走するよ(^^)) 倉木の内容に顔をしかめる。 (なんだ? 雪の事で聞きたいことって? やっぱり先生は雪を狙ってるのかな? う~んあの人は本当に読めん!) 律は自分が振り回されるのは余り好きではないので、倉木の行動の読めないのが腑に落ちないようだ。 (まっいっか!ご飯奢ってくれるし、暇だから行ってこよ~っと) 考えてもわかんないし、とポチポチ返信をする。 (さて準備して出かけるか、雪は今日遅くなるって言ってたな。あいつにやって欲しいってお客さん多いからな) 律がシャワーを浴び準備をしていると、ドアが開いた。 「ただいま」 「あれ? 颯太さん今日は早いですね?」 雪の兄の颯太が帰ってきた。 「ああ、相手先の都合でミーティングが来週になったから早く帰ってきた。雪は?」 「あいつはまだ仕事ですよ。俺もこれから倉木先生とご飯に行ってくるんで!」 「ああ、気をつけて」 颯太は律を送り出し、ソファに座った。 (最近、雪と律から何とか先生の話を聞くが大丈夫かな?雪は騙されてないか?可愛いからすぐ目を付けられるし、今度どんな奴らか見に行かなきゃな!) 颯太は、言わずとしれたブラコンである。 黙ってれば爽やかイケメンなのに、口を開くと雪雪のオンパレード。 会社の女性達は、遠巻きに観賞用として颯太を見るだけになってしまった。 本人は自覚がないので、モテないと思っている。

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