7 / 42

第7話(雪を尋ねた人物)

「律君、急に呼び出してごめんね」 居酒屋に入った倉木は最初に言った。 「先生、その律君ってやめてもらえますか?律でいいっすよ!」 「そう? じゃあ律、俺も先生はやめて名前で呼んで欲しいな」 「倉木さん? 翔太さん? う~んどっちも言いづらい…翔さんでいいっすか?」 「全然大丈夫だよ。ほら唐揚げきたよ、食べな」 「あざーす!俺、唐揚げ好きなんだよね」 嬉しそうに唐揚げをほうばる律を、ニコニコしながら倉木は眺めてる。 「律は本当によく食べるね!見てると幸せな気分になるよ」 「あ~そうなんっすよ! よく食べるから女の子のデートとか行くと食べ過ぎって怒られます!なんで女の子はあんなに食べないんっすかね?」 モグモグしながら、律が疑問を言った。 「律はモテそうだけど、恋人はいないの?」 倉木は今日一番聞きたかった事を、早々に聞いた。 「今は居ないっすね!オープンして忙しいのもあるけど、俺真剣な付き合い苦手で、週3回は会ってとか、私と付き合ってるなら他の子とは遊ばないで、雪を優先しないで、とか色々言われて嫌になるんだよね」 律は、ブルブルっと身震いした。 雪にのめり込むストーカーを散々見てきたせいか、深く付き合うのが怖い律は、どうしてもどっかで線を引いてしまう。 本人は気づいてないが、律も充分恋愛にトラウマがあるようだ。 「あっ、ところで翔さんは雪の何が聞きたいの? 雪を口説くのはダメだよ?」 「えっ? あ~なんだっけな?」 本来の目的が律とご飯、律に恋人がいるか聞くためだったから、最初の誘いの理由を忘れていた。 「えっと…そうだ! 雪君、和希に触られたりして嫌がったりしてない? ほら前に言い寄られてばかりで、困ってるって言ったから、和希の強引も、もしかしたら嫌だけど言い返せないのかなーと思って」 (うん、ちゃんとしな内容だ。疑わられない) 倉木は自分が出した質問に、自分で自分を褒めた。 「あ~別に嫌とは言ってないっすよ。雪嫌なら顔に出るし。笑顔で接してても目が泣いてるから。でも斉川先生にはそんな表情してないし、むしろ照れてますね」 「ほー、それは意外だね?」 わかってるが、律に合わせてウンウンと頷く。 「多分、斉川先生に下心がないから不快じゃあないのかな? でもあれだけイケメンなら、雪も少しは心開くのかな?」 律はブツブツ独り言を、言っていた。 「凄い疑問なんだけど、律は雪君に本気で恋した事ないの? あれだけ可愛い子がそばにいたら惚れそうだけど?」 「う~ん、それも小学生で終わったかな? 雪は可愛いけど、俺女の子の方が好きだし。でも長続きしなし、すぐ怒るから疲れちゃうんだよね。多分、恋愛自体向いてないと思う」 「律は本気で好きになった事がないんじゃない? いつか現れるよ、本気になれる人に。人は本気で好きになれば、性別も年齢も気にしないからね。まっ、俺なら律はいつでも歓迎だよ」 笑いながら、倉木が律に言う。 「もう、翔さんはすぐからかう!俺なんて美味しくないですよ」 1ミクロンも倉木の気持ちに気づかず、軽くあしらう。 「じゃあ今度また美味しい物連れて行ってあげるよ、何がいい?」 「マジで? じゃあ焼肉食べたい!」 子供のようにニコニコ喜ぶ律を見て、倉木も頬をゆるませる。 __________________ 「ありがとうございます」 最後のお客さんを送り出し、雪はふぅーとため息をつく。 (よし、後はレジ締めして帰ろう~) ガチャとドアが開いて、安田がお店に入ってきた。 「雪くん、こんばんは」 「えっ? や、安田さんどうされました?」 雪は平常心を保ちながら笑顔で答えた。 「仕事の接待でここら辺でご飯食べてたんだよ。ここを通ったら、まだ明かりがついてたから差し入れと思ってね!」 安田が、栄養ドリンクの袋を雪に渡した。 その時、安田から酒の匂いがした。 (安田さん、お酒飲んでるな…) 「あ、ありがとうございます。冷蔵庫に入れときますね」 「もう、終わりだよね? ご飯行こうか、ご馳走するよ」 安田が、当たり前の様に誘ってきた。 「僕まだやる仕事もあるし今日はプリンも連れて来てるので、大丈夫ですよ」 「俺は待ってるよ。プリンちゃんも行けるドッグカフェにしよう」 全然空気が読めない安田が、グイグイと誘ってくる。 (困ったな~今日は律もいないし、でも自分でちゃんと断らなきゃ!) 「すいません。本当に仕事が残ってるので、無理です! 」 少し強めに雪が言うと、安田の表情が険しくなった。 「雪君、俺は何回も誘ってるのに君は1度も来てくれないね。ティアラを君に預けてるのは信用してるからだよ。そんな俺の信頼を君は裏切るの?」 矛盾している事を言いながら、安田が詰め寄ってきた。 (待って待って、怖いどうしよう…) 雪はあとずさるが、すぐ壁にぶつかってしまう。 すぐ近くまで安田の顔が、近づいてきた。 それにつれて酒の匂いも強くなってきて、顔を背ける。 そんな事お構い無しに安田は、雪の頬を手でなぞり出した。 「や、安田さん、やめてください…」 「雪君、俺の気持ちに気づいて知らないふりをするのかい? 君は本当に意地悪だね。こんな可愛い顔して……」 そう言うと、安田が雪を抱きしめた。 「!!!!」 突然の安田の行動に驚きながらも、必死に逃れようと暴れる。 「無理だよ。その必死な姿も堪らなくそそるんだよ、君は…」 逆に興奮した安田は、雪を抑えつけキスをしようとした。 酒臭い匂いと共に、安田の顔が近づく…

ともだちにシェアしよう!