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第12話(斉川と雪、それぞれの想い)
「ありがとうございました。お気をつけて」
(さて、片付けして帰ろーっと)
チラッと時計を見る。
「6時か…まだ病院診察だよね? 外まだ明るいから先生に迷惑かけないように、先に帰ろっかな…」
ガチャ!と音がして斉川が入って来たのが見えた。
「えっ? あっ? 先生?」
突然入ってきた斉川に、雪は驚く。
「先生、診察まだ終わってないですよね? どうしたんですか?」
「雪は終わったんだろ? だから迎えに来た。診察は混んでないから、翔にやらせてる」
斉川の言葉にビックリした雪は、思わず笑ってしまった。
「先生がそんな事言うなんて、ビックリしました」
斉川は、クスクス笑う雪を不思議そうに見る。
「そんなおかしいか? 片付け待ってるから帰るぞ!」
「はい、ありがとうございます! ちょっと待ってて下さい」
雪は慌てて片付けを始めた。先に帰ろうと思ってたが、実際斉川が迎えに来てくれた事に、嬉しさを隠しきれない雪がいた。
(僕凄く嬉しいって思ってる…。先生は心配で来てくれてるのに…余り嬉しそうな顔しないようにしないと)
雪は、急いで片付けをして着替えた。
「先生、お待たせしました」
「雪、急がなくて大丈夫だ。襟が曲がってるぞ」
そう言うと、斉川は雪に近づき乱れた襟を直し始めた。雪の目の前に斉川の顔がある。
(わ、わ、わぁー!恥ずかしい…。そんな近くでやられるとどこ見ていいか…)
雪が1人でプチパニックになってるのなんて知らない斉川が、襟を直して満足そうに雪の頭をもふもふしだした。
「もう、先生僕は犬じゃないですよー!」
毎度毎度、触ってくるので慣れてきた雪は、逃げはしないが、口で文句を言えるようになった。
「ああ、知ってるが触り心地が良くてな…」
止める気配もなくひたすらモフる斉川に、
「ほら、早く帰りましょ!」
と、途中で中断する雪だった。
「先生、今日は本当にありがとうございます、本当に診察大丈夫なんですか?」
歩きながら雪が言うと、それには答えず、
「雪、時間あるならご飯に行くか?」
と、言った。
「えっ?」
斉川からご飯に誘われるなんて初めてで、雪はとてもビックリした。
「昼間忙しくて食べてないから、腹が減った」
律みたいな事を言う斉川に、クスッと笑う。
「先生、なんか律みたいですね? じゃあプリンも居るのでドッグカフェとか行きますか?」
「どこでもいい、飯が食べれるなら」
2人は近くのドッグカフェに行く事にした。
席に着き注文を終えた2人。雪は、無口な斉川と何を話そうか迷っていた。
「先生はいつ開業したんですか?」
お見合いの席の様な無難な質問をする。
「27歳の時だ」
「凄い!早いですね?」
驚く雪に、
「大学卒業後に働いた病院で、役に立たない先輩が、ウザすぎて自分でやる方がマシだと思ってな」
と、説明した。
納得する理由で、思わず笑ってしまった。
「なんか、分かる気がします。じゃあ倉木先生も最初から一緒だったんですか?」
「あいつも同じ病院に居て、翔は誰にでも合わせられるからどっちでもよかったんだが、俺といた方が楽が出来きるとついてきた」
「さくらも動物看護師として働いていたから、来てもらった」
(倉木先生もさくらちゃんも先生の性格を心配したんだろうなー。先生いい人だけど、伝わりづらいだろうから)
雪の思いはその通りだった。当時斉川が病院を辞める時、倉木とさくらは斉川の腕を信頼して、サポートする事に決めたのだった。
「まあ、その通り翔は好きにやってるよ。しょっちゅう早退して、今家とご飯に行ってるし」
ブツブツ文句を言いながらも、2人に感謝してる様子が伝わってきた。
「先生は、二人の事が大好きなんですね」
ニコニコして言う雪に、心外だと顔をしかめる。
「さくらは好きだか、翔は違うぞ! フラフラして落ち着きないから結婚でもして落ち着けばいいんだ。さくらはダメだが」
「ふふ、先生僕の兄さんみたいです。いっつもいっつも僕の心配ばかり、自分に彼女作るとか全然考えてないんですもん」
「俺は、さくらに合う男がいれば許可をするぞ!今まで見てきた奴らは、ろくなのがいないんだ」
ちょっと子供の様に言い返す斉川に、雪は嬉しくなった。
(先生が子供みたいに反論して可愛いなー)
雪がニコニコしてると、急に斉川の手が顔に触れた。
「ちょっ! 先生?」
ビックリした雪に、
「傷口もう治ったな。目立たないぞ」
雪の頬を撫でながら、満足そうに斉川が言う。
「せ、先生のお陰ですよ。ありがとうございます」
動揺をバレないように、冷静に雪が言うが心は穏やかではない。
(どうしよう、僕ドキドキが止まらない。どうして、先生はこんなに僕に触るんだろう…)
恥ずかしすぎてどうしていいか分からない雪だか、斉川も自分の感情に疑問を持っていた。
(なんで俺は雪に触りたいんだ?それに、もっと触りたいとも思ってしまう)
斉川は雪の頬を撫でながら、次は頭を触りだした。
「先生ーまた頭ですか?」
情けない表情の雪に、
「こればっかりは諦めろ。触らずにはいられない。モフりたい頭を持っているお前が悪い」
意味不明な理由で、触り続ける斉川だった。
(はぁー流石に僕も頬より頭の方がマシだけど、どっちも恥ずかしいにはかわりないよ…)
雪は、心の中で情けない声をだす。
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