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第14話(さくらと颯太、初めまして)

「雪ーただいま!」 「兄さん、おかえり。ご飯なんか作ろうか?」 「助かる! 腹減って死にそうだ。雪はもう食べたのか?」 「うん、今日は斉川先生とご飯したんだ、プリンも連れてドッグカフェに行ったよ。」 ニコニコ嬉しそうに話す雪に、 「雪、最近斉川とかいう先生の話をよくするな? どんなや…人なんだ?」 少し不満そうに聞く颯太。 「ふふ、先生と兄さんは似てるね。先生もいつも妹のさくらちゃんの心配してるよ。大丈夫、心配しなくても先生は優しいよ。見た目はムスッとして怖いけど話すと優しいし、よく助けてくれるよ」 「雪、なんか嬉しそうだな?その斉川って奴のこと好きなのか?」 「好きって! やだなー兄さん、そんなんじゃないよ」 顔が赤くなりながら否定する。 (うー、全然そんなんじゃない気がする! 次の休みその病院に見に行かなきゃ!) 硬い決意をする颯太だった。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 颯太休みの日 (よし! ようやく来れたぞ! KS動物病院! 今日は雪とご飯の約束したから、迎えがてら来ても不自然じゃないよな) 動物病院の前でウロウロしてる颯太は、明らかに怪しい人物だ。 (うーん、どうやって中に入ろう? 診察中に尋ねるのは人としてダメだし、プリンも連れて来てないし、雪と一緒だと怒られるからな…) ブツブツ言いながら、病院の中の様子を伺ってると、さくらがスタスタ出てきた。 「あのー、患者さんですか? どうされました?」 (うわ! めちゃくちゃ可愛い人が出てきた!) さくらの登場に慌ててながらも自己紹介をする。 「いや、あの私、村田颯太って言いまして…」 雪の兄です。と言おうとしたら、さくらが手を打った。 「あー、もしかして雪さんのお兄様ですか? いつも雪さんからお話は聞いてます。私、斉川さくらと言います」 さくらが、ニコニコと自己紹介をしてくれた。 「あ、はい。いつも雪がお世話になってるようで。今日は雪とご飯なので迎えに来た所で」 (もうお兄さん、わかってますよ。雪さんが心配でお兄ちゃんを見に来たんですね! 本当にお兄ちゃんにそっくりだわ。顔がカッコイイのに残念) さくらは心の中でニヤニヤしながら、 「そうなんですね、入って下さい。兄は今手が空いてるので」 どうぞどうぞと促されて病院の中に入っていく。 「お兄ちゃん、ちょっと来て!」 (よし、どんとこい!) 颯太は心を決めて斉川を待つ。 「なんだよ」 「さくらちゃんどうしたの?」 斉川と倉木も出てきた。颯太を見て誰だ? と怪訝な顔をする。 「こちら、雪さんのお兄様の颯太さんよ。いつもお兄ちゃんや翔さんが雪さんを連れ回すから心配で来たのよ」 ズバリ本当の事を言われた颯太であった。 (この、看護師さん怖い…。なんで俺の心が読めるんだ?) 「あ、雪君のお兄さんか? 雪君に似てるね! 随分カッコイイんだね」 倉木が屈託なく話しかける。 (この人が倉木先生か、よく律が話してるが本当に愛想がいいんだな。じゃあこっちのムスッとしてるのが斉川って奴か?) 「どうも、斉川です」 簡単な挨拶だけをする斉川。 (聞いたままじゃないか! 無愛想で無口。なんでこんな奴に雪がなついてるんだ?) 不思議に思ったが、 「どうも、雪の兄です。こないだ雪が怪我をした時はお世話になりました」 嫌でも斉川のお陰で、雪が無事だったのは事実だから人としてお礼をする。 「雪はあれから家でどうです?あいつから連絡とかはないですか?」 雪の心配をする斉川に、颯太は意外そうな顔をした。斉川が雪の話になると話し出す事に驚いたのだ。 (他の話には興味なさそうなのに、雪の話には入ってくるのは雪の事を気にかけてるのか?それとも雪の事がもう好きなのか?) 悶々と考えてると、 「兄さん! なんで病院にいるの?」 雪と律が入ってきた。 「もう、あれほど行ったらダメって言ったのに!」 プンプン怒る雪に、慌て弁解する。 「いや、早く着いたから挨拶にと思って。」 「本当に? 変な事言ったんじゃないの?」 「ないない! 全然ない!」 雪に怒られるのは怖いので、慌てて首を横に振る。 「アハハ、雪君はお兄さんには強いんだね? 大丈夫だよ。雪君の怪我の事のお礼に来ただけだから」 倉木が助け船を出す。 「本当ですか? 余計な事を言ったら怒って下さいね!」 「雪さん、お兄さんには厳しんですね。大丈夫ですよ、お兄さんと話せて楽しかったですから」 さくらがクスクス笑いながらフォローしてくれた。 (看護師さん! なんて優しい人なんだ。さっきは怖いと言ってごめんなさい) 庇ってもらった颯太は、さくらに親近感をわかせた。 「雪さん、律さん、颯太さんとご飯なんですか? それ、ご一緒したらダメですか? せっかくご挨拶に来て頂いたんだし、みんなで行きませんか?」 「そんな、さくらちゃん悪いよ」 「いや、行こう! みんなの方が楽しいよね?」 律と一緒にいたい倉木が速攻で返事する。 「じゃあみんなで行きましょ!お兄ちゃんいいよね?」 「俺はめんどくさ…わかった…」 さくらの目から、頷けと無言の圧がかかる。 斉川は頷いて、渋々ついて行く。 「先生、なんかすいません。兄が大丈夫でしたか?」 後ろの方を歩きながら雪は斉川に小声で話しかけた。 「ああ、大丈夫だ。雪が心配なんだな」 「そうなんですよ。昔から過保護で、そろそろ自分の事に目を向けて欲しいんですが、僕の話ばかりするから、女の人にも遠巻きに見られてて。顔はカッコイイのに残念です」 「雪はお兄さんの事が好きなんだな」 斉川に言われ照れたように頷く。 実際色々な目にあった時は、律と同じく随分助けられた。そんな優しい兄に幸せになってもらいたい。と雪は願っている。 そんな雪の思いなど知らない颯太はさくらと倉木相手に雪の可愛らしいさを絶賛アピール中だった。 「俺が熱出した時なんて1晩中そばにいてくれて、本当に可愛かったんですよ」 「颯太さん、雪雪ばっか言ってるから彼女の1人も出来ないんだよ! 俺この話何万回聞いてるか」 「いいんだよ! 俺はモテないから彼女なんて出来ないよ」 「イヤイヤ、颯太さんはかなりのイケメンっすよ! ね、翔さん、さくらちゃん!」 「うん、雪君は可愛い系だけど、颯太君は男前って感じだね? 似てるけどちょっと違うね。でもモテると思うよ」 「そうですね、私もお兄ちゃんや翔さんに囲まれてイケメンはだいぶ見慣れましたが…翔太さん、素敵ですよ」 さくらに言われて颯太はドギマギした。 (この子、素直すぎる! なんであんな無愛想な兄にこんな天真爛漫な妹がいるんだ) 「ど、どうもありがとう」 少しハニカミながら笑顔で答える颯太に、 (やだ、可愛いー! この笑顔は会社の女性達もやられるわね! 颯太さん自分の良さに気づいてないのも好感度上がるわ) 珍しくさくらもドキドキしてきた。 顔面偏差値が高い人達と過ごしたせいで、顔にトキメク事はなくなったが、颯太みたいな素朴な性格には免疫が無かった。 さくらの周りのイケメンは無愛想、うるさい、チャラチャラ、ワンコ系かわい子ちゃん。 (うーん、私って恵まれているようで恵まれて無かったのね!だから彼氏が出来ないんだわ) 妙に納得するさくらだった。

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